どうして感染者がこんなに急激に減ったのか、よくわからないまま、緊急事態宣言が今月末で解除されることが今日28日(火)決まりました。季節の影響と言われても、お隣の韓国は急増中ですし、今年RSウィルスは季節外れの時期に流行しました。上昇加速度が1を切り始めた頃(上昇カーブが鍋底から山形へ変化していった時期)は人流も増えていた時期だったので、変化の要員はマスクでも人流でも飲食店でもお酒でもワクチンでもないことだけは明らかでした。
では、何が原因なんでしょうか。最も説得力のある説明の一つは、私にはウイルス自体の自壊説のように思えます。東大名誉教授の児玉龍彦さんがそのメカニズムをわかりやすく説明していたので、ご紹介します。ここからちょっと生物化学の基礎知識が必要になるのですが、どんなウイルスでも増殖過程(つまり複製過程)で複製エラーがたまに起きます。新型コロナはRNAウィルスなので、そのデオキシリボ核酸の鎖が一本です。DNAは鎖が2本で、あの二重螺旋になっている図を見たことありますよね。もちろん人間は2本です。新型コロナやインフルエンザやエイズなどのウイルスはこれが1本しかないRNA型です。ですから一本なので、一般にコピーミスが多いと言われています。多くのエラーは不安定なものや不活性なもの(増殖していくのに環境に合わないもの)になるので、マイナーなまま終わってしまいます。ところがエラーも繰り返しているうちに、そっちの特性の方が環境にあっているものが出てきて、それが優位になって変異株ができるわけです。
ところが新型コロナは鎖がうんと長いのですが、14番目の遺伝子がコピーエラーを修復する酵素を作りだしていて、変異はあまり多くありません。せいぜい月に2回、年に20回ぐらいで、とても変異の少ないウイルスになっているそうです。ですからワクチンや抗体による治療が効くのも、この特製のためです。すぐに変異してしまっていたらせっかく作ったワクチンも抗体カクテルもすぐに効かなくなって、イタチごっこで手に負えなくなります。そういう意味では変異が少ないから、これでも私たちはラッキーだったとも言えます。
ところが、海外の感染爆発の変異によってできたデルタ株が日本に入ってきて、このウイルスは人に移りやすいからどんどん人の体内で増殖し(重症化もさせてしまう性質も持っていたわけですが)、人から人へ移し続ける、ということを繰り返す頻度がものすごく増えました。つまり結果的にエラーコピーの数も急激に増えたのです。その結果、変異したウイルスは自壊してしまう特性を持ったものが優位になっていったと考えることができるようです。でもこれは偶然の産物かもしれません。必ずどんな株でもそうなるとは限らないはずです。
では、今後も同じような急激な感染爆発と急速な収束を繰り返すのでしょうか。変異株をうむ親のような株、それを児玉教授は「幹」と呼んでいますが、これを徹底的に絶つ必要があります。幹は変異が少ないから生き残っているらしく、あまり症状を出さず、無症状でひっそりと生き残っているのです。この幹ウイルスが、次々と大きな感染を引き起こす変異株を生み出していることになります。
そういう意味では感染集積地を無くしていくことです。飲食とかお酒とかを、ダラダラと続きたりやめたりするだけじゃなくて、リスクのある場所は保育園も含めてしっかり検査してもらいたい。スパイクタンパクの特性が変わって子どもが感染しやすくて重症化しす変異が今後、現れてもおかしくないのですから。
保育園は、子どもの命を預かることと経済を回すための砦との二役を担わされているのですが、流行しだすと、あまりにも荷が重すぎます。
そういう意味では、過去3回(武漢型、ミラノ型、デルタ株)とも失敗した水際対策です。国内も海外の情報も含めて徹底的なゲノム解析による予想を、サミット先進国がすべてやっているような対策をしないのは、どうしてなんでしょうか。そして水際対策を官邸の指示ででもなんでもちゃんと動かすようにしてもらいたいものです。
検査も抗体検査(SとNの両方を)とPCR検査をセットにしないと実態が分析できないはずです。そしてまた流行が始まったら、早くゲノム解析して感染力、感染様式を正確に早く公表してほしい。
いろいろ、言いたいことがあります。空気感染であるエアロゾル感染を飛沫感染と言い換えるようなミスをずっと放置しないでほしい。そして小児科と母子保健を手厚くしてもらいたい。隔離対策でしかない感染研と保健所だけでパンデミックには手が回りませんから、他の国のように医療としての対策に転換してもらいたい。都道府県と医師会丸揚げじゃなくて国も動いて独立行政法人の国立病院機構や地域医療機能推進機構もしっかり患者を受け入れてもらいたい。
とくに東京都は、現状追認のモニタリングではなく、サーベランスをしてほしい。大量のゲノム解析、ちゃんとやってください。お願いします。