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2024年 8月

子どもと一緒にどうやったらできるかを考える

2024/08/23

左側が子どもたちの野球チーム「ちよだせいがDODGERS」、右側がT先生とY先生の先生チーム。黄色と赤の画用紙のところに、得点が記入されていきます。

3階の運動ゾーンで定期的に開かれている野球の試合。野球好きの男の子たちが中心になって、春先からずっと展開されている野球ごっこです。今日の試合会場は、オリックスバファローズのホームグラウンド「京セラドーム大阪」だそうです。全国の球場の写真が張り出されています。

自前のバットを作っていた5月ごろから、自分の背番号を決めたり、野球ごっこが盛んに始まりました。子どもはボールを上手くストライクゾーンに投げれないので、ピッチャー役は先生です。1塁2塁3塁とベースを決めて、白いテープを四角く貼り付けたり、ベースに滑り込んだり、どこまで飛んだらホームランとか、遊びながらいろんなものやルールが作り込まれてきました。

6月ごろには応援団ができて、応援席からがんばれーと言う声や歌、曲が聞こえてくるようになったり、チームのトーナメント表が作られたりしてきました。

今週は、制作ゾーンでドリンクとポップコーンを作っていたのですが、試合会場に受付カウンターができていました。レジとお金も置いてあって、子ども3人が座ってドリンクとポップコーンを販売しています。

応援団はチアガールも登場し、踊るときに使うボンボンも作られていました。

後楽園球場や神宮球場など、実際に野球を見に行ったことのある子どもたちが知識を広めていて、先生たちと一緒に「どうやったらそれができるかなぁ」と考えながらやっています。

子どもたちが「こんなことやりたい!」と出てくる発想や、アイディアを楽しそうに受け止めながら、一緒に作り上げていく遊びの数々。何かを作り上げていく中に、いろんな要素が入り込んでいます。運動のほかに、得点を競うなかに数や文字をかいたり、数の操作や表示など、そういうことへの感覚や関心も育っていくのですね。

 

全国大会の実践発表から(3)保育者のまなざしについて

2024/08/13

全国大会の実践発表を聞いて、かなりの部分を想像するしかないにしても、子どものそばに子どもがいるという異年齢の人的環境の関わりが起きている経験が起きていることは事実です。そしてそこに、何がどういうことが起きているのかに目を凝らしている保育者たち。こんなに組織として着目しているのか、と感心してしまいます。報告を振り返っているうちに、自分の見えている保育風景と重なってくることがありました。

子どもはやりたいことのために、それをやっていい状況を見つけ出す嗅覚を持っています。その時、周りにいる大人がいいと思っているかどうかに敏感な子どもいれば、他人の目線なり空気なりにお構いなく、やりたいことにまっしぐら、というタイプもいます。大人の顔色に敏感なのか、周りの子どもたちの言動に敏感なのか、あるいは人がいるいない、とか空間の広さや気配などに敏感なのか、それは実に色々であって、そうした傾向は見えにくくなったとしても大人になっても保持していることもあって、人間の成長や変化というものを長い目で見るときに、あまり変わりようのない基底的なものがあるなら、子どもの頃からそれにあった環境を用意してあげたいと思ったりします。

そうは思っていても、その子どもにとってふさわしい空間になっているかどうかは、実際に体験してみないとわからないので(本人も私たちも)、その様子を見ながら、こんな場所があるといいかもとか、こんなところがお気に入りなら無理のない範囲でそのままにしておこうとか、かなり融通をつけてどこでもいていい場所になっていきます。

その時に難しいのがどこまでそれを許容するか、という線引き問題が生じるという話です。きっとどの家庭でもどの園でも、どんな社会でも起きる話なのでしょうが、できるだけ大事にしているのは本人とのやりとりのあり方です。津守真の「保育者の地平」や倉橋惣三の「育ての心」などが大人の心情を満たしていることが理想的ですが、それを知らない、あるいは忙しくてそれどころではないという保育者がこの問題に直面すると、組織としての統一したルールのあるなしが問題という風に捉えられてしまうという難点が生じやすいと想像します。

もし第三者評価などの評価項目として、この辺りの標準化してルールが「ある」として用意するなら、内容はどう考えるか、という書き方になるか、かなりバリエーションを増やす例示の仕方になるかもしれません。

許されているという感覚すらないほど、あっけらかんとそこで過ごしていることが多いわけで、そこには「線」など見えないわけで、引くなら子どもと話し合って引き直すことになるでしょう。「ここね、お客さんが来るから、こっちでやらない?」とか。この辺りの対話がすんなりいく時とそうならないときとがあって、そこには小さい子どもなりに相手との相性とか優しさとかを感じ取っての反応と傾向が見られます。

同じように見える状況ではあっても、子どもによっても、大人によっても、それまでの経過によっても生成している事実はそれぞれ異なるものです。その時に感じているそれぞれの気づきも考えも思いも異なります。このような人と人の関わりの経験を保育としてどのように描き出すのか。どこに力点をおいて、その事象に適った言葉を連ねるのか。例えば「主体的」では意味が大きすぎて何もいっていることにならないとか、「選択」では結果的にそう判断しているかのように見える入り口や出口の様相でしかなく、そこの過程や揺らぎの部分が軽くなってしまう。といった具合に、言葉を使うなら、保育で起きている事実はもっと多面的に色々な姿として描き出す必要性を感じるのです。

起きていること、という捉え方自体も疑いたいのですが、そこまで考え出すと伝えるのも難しくなります。でもそのあたりのことを考えながら、子どもと接しているという日々なのです。

全国大会の実践発表から(2)〜主活動を見直す・食育・心を動かす〜

2024/08/12

ギビングツリーの全国大会の実践報告の続きです。

(4)多賀城バンビの丘こども園(多賀城市・定員69人・鶴島恵理園長)は「これまでの振り返りから 遊びの展開を考える」を発表しました。

主活動なり課題保育なり、名前はどうであれ午前中にある時間帯をそれにあて、それ以外の時間の意味づけなり、それとの関係が不明瞭なままであることがよくあります。そこを大胆に見直した報告でした。

週案の書式を次のように見直しました。左側に「子どもの姿」右側に「環境」を書き出し「子どもの興味や関心に合わせて選択できるように、また意見を表明して参加できる活動やゾーンなど」を対応できるようなものに変えたのです。

どの時間にどこでそれをやるのかは、やりやすいタイミングをアレンジすることになります。事例として「木登りををしたい」「雨の日、そして美容室」「STOP!その丘、危険です」の3つ。

その結果、子どもは「〜したいが増えた。『やりたくない』が減った」「遊びのルールや過ごし方を自分たちで話し合って決めるようになった」そうで、先生も「まず子どもに聞いてみることが増えた」と言います。

藤森代表「子どもがいろんな経験をする意味がよくわかる実践だったと思います。子どもが何かをを選べるようになるために、先生がこんなことが楽しいとか、どんなやり方があるかなどの方法も伝えることが必要です。こんなことができるよと体験できるとよい。心情・意欲・態度の中の心情を作るための課題保育、面白いとか楽しいとか感じるようになるから、意欲が生まれてきます。どこにどんな環境があるかも知らないと、そこへ向かわない。事例の木のぼりをしたい!と公園を選べるようになるのもそういう、それまでの体験があるからでしょう」

(5)大宝保育園(茨城県下妻市・定員120名・山内雄佑園長)は「見守る食育」の実践を報告しました。遊びのテーマ選択はよくある事例ですが、食育活動を選択できるようにした事例です。

「野菜の準備」「食育絵本」「ミーティング」「お米とぎ」をする場所に分けて、年長さんから始めてみると「玉ねぎ」の皮むきをしているグループに「色が違うよ」と絵本で見つけた玉ねぎの色の違いを伝えたり、終わった後の話し合いも気づいたことや感じたことを伝え合うという姿に変化していたそうです。

また、食事や運動や生活リズムなどの子どもの健康のために様々な最新情報を保育に活かしています。

藤森代表「ミーティングをどう考えか。米国のハイスコープでは何をしたいかというプランを立てたり選んだり、やった後にどうだったか振り返り、じゃあ次は何をするか次に結びつける話し合います。発表に『疑問のタネ』という言葉がありました。まさに、これを持たせるのがSTEMです。やってみて9割失敗しても構わないです。大事なのは疑問を持ってやってみようとすることが大事ですね」

(6)しげる保育園(仙台市太白区・定員70名)は「心を動かす環境作り」。

「自分らしく生き、望ましい未来社会を作り出すため」にという理念から「シチズンシップの基礎づくり」を心がけています。その視点からの異年齢の関わりの広がりが報告されました。

新年度は卒園や進級で子ども同士の関わりに変化が起きます。報告では3歳児が「関わりが減ったことを不思議に思っている」と捉え、他のクラスの様子を見に行ってみることに。すると年長児の「青葉祭り」で毎年やる「すずめ踊り」をみて「かっこいい」「一緒に踊ってみたい」。0歳児へいくと優しく触れ合う姿が見られ、先生は「乳児のことを知ろうとする姿」に驚きます。

生活の場面でも、幼児が乳児を部屋へ連れていってくれたり、幼児が「お手本になろう」とする姿が見られたとそうです。その流れで給食を一緒に食べたり、着替えやお昼寝のお手伝いへもつながり「頼られたり感謝される喜びや特別感を感じて」異年齢の交流が広がっていきました。

藤森代表「平成元年から始まった「環境を通して」ということがなかなかいかないといわれています。そこを先生たちがよく見直してます。子ども同士の関わりの環境も含めてです。ベルギーなどもそこを最初に検討するといわれています。4月の新学期は落ち着かないから異年齢はまだしない方がいいといわれることがあるが、異年齢の関わりが安定しているなら、そんな時こそ、年少の不安を年長がケアしてあげることができます。3歳児だけにしないで45歳児がそばにいてあげることで安心すると思います」

全国大会の実践発表から(1)〜異年齢・探究心・参画〜

2024/08/11

仙台市の「仙台サンプラザホテル」で開かれている全国実践研究大会の2日目(10日土曜日)は、実践発表と講評でした。6つの実践発表はそれぞれを詳しくレポートしたいほど素敵なものばかりで、どれもどこかの保育団体などで実践報告してもらいたいと思いました。ギビングツリー(GT)は子ども同士の関わり、異年齢保育、子どもの主体性、チーム保育、園庭の工夫などの面に特徴があります。実践発表にはそこに積み重ねと工夫があって感動します。

というのは、保育を工夫し、子どもたちが育つには時間がかかるからです。と言っても環境を変えると子どもは意外とすぐに変化するものですが、それとはまた別の次元で子ども文化といった集団の育ちは時間がかかります。先生たちが環境を工夫するのにも意思疎通や話し合いやチームワークの良さなどを発揮しながら徐々に良くなっていくものです。

したがって保育は一朝一夕にすぐ良くなるものではないのですが、全国大会の実践発表は、どの園でも子どもたちと先生たちの具体的な姿がたくさん報告されるので、そこに至るまでの苦労が想像できて胸が熱くなるのでした。

(1)マザーズ・かみすぎ保育園(仙台市青葉区上杉・定員90人・三浦えみ子園長)は「異年齢児で育ちあう子どもの姿」が報告されました。

普段の子どもたちの人間関係をつぶさに拾った報告で、0〜2歳児、3〜5歳児のふれあいの中に見られたエピソードが24も報告されました。

2歳児が遊具を容器に入れているを見た0歳児が興味を持って近寄り同じことをし始めても「自分より小さい友達を受け入れ、自然な流れで一緒に遊ぶ様子があった」という事例。そこには育つ姿として「思いやり・安心感・いたわり」を確認しています。

さらに24の事例を分析して表にまとめています。こういう研究の積み重ねはとても貴重な実践研究でしょう。

藤森代表「異年齢児の関わりや思いやりとか、助けるとか協力するとか、そういうことがよく言われるが、安心感ということを言っていますね。これからの小学校以降の学びにも、気遣うという意味のケアや精神的なサポートとして異学年の学び合いが奨励されていくはずです。アタッチメントの本来の機能としてもこういう子ども同士の役割を大切にしたい」。

(2)認定こども園つばさ(茨城県稲敷市・定員120人・本橋久代園長)は、「『体験からの学び』そして『経験から探求心へ』」として4つの取り組みが紹介されました。

1つ目は「異年齢で育ち合う環境」。「朝のお集まりから、遊び、食事、午睡と可能な限り異年齢環境を作り、子ども同士で育ち合う姿が各所で見られる」そうです。発表では動画で3人のやりとりが紹介されました。お店屋さんごっこで4歳の子がやっと手に入った半被を着ていたら3歳の子に「これ貸して」とせがまれ、どうしようかと悩んでいる姿が愛らしく、その様子を見ていた年長の子が貸してあげるという一コマでした。スローモーションで子どもの表情を捉え、揺れ動く心の動きを想像しながら保育を展開してくことを、先生たちが楽しんでいる様子が窺えるものでした。

2つ目の発表は「体験からの学ぶことができるSTEM環境」。風、鏡、光、音、熱などのテーマごとに実験遊びができるほか、園内だけではなく子育てセンターでも「ベビステ」を展開していました。

3つ目の実践は「生きもの・自然とのふれあい、観察」です。園庭にやってくる虫たちを中心に、その飼育を通して命の大切さや、それを維持していくことの難しさを「先生たちも一緒に学んでいる毎日です」というスタンス。

4つ目は「SDGsがある環境『すぐに できるを がんばる ぞ!』」で、絵本、ゴミの分別からスーパーのサイクルステーションへ、端切れや古着を使ったエコバック作りなど。

藤森代表「いろんな活動ができるのは先生たちの得意なことや持ち味を生かしたチームの連携が良い証拠でしょう」

(3)こども園こうほく風の遊育舎(秋田市土崎港北・定員138人・髙橋静子園長)は「子どもの『自ら育つ力』〜その育ちを信じて〜」。

屋上の雄大な園庭(3つのスカイパーク)での食育活動、その畑で育てた野菜などでのクッキング、薪割り、新米おにぎりパーティ、秋刀魚の炭焼きイベント、鰤の解体ショー、里山「森のこども園」での活動、年5回のスキー体験など、自然環境を活かしたダイナミックな保育を展開しています。

発表では、屋上の園庭にある畑を有効に使った保育、おたのしみ会、卒園式を取り上げて、いずれも子どもの「やってみたいこと」から作り上げていった子どもの参画のある保育が紹介されました。

計画の段階から話し合い、体験内容を子どもたちが考えたり話し合ったりしていく様子が動画を交えて報告されました。お泊まりを楽しいものにしたいと、子どもがアイデアを出し、その日にクッキングをするために畑を作るところから始まる活動や、数ヶ月先の見通しを持って継続的に関わっていく姿を見ていると、自然を保育環境に取り入れる場合の年間計画のあり方を考えるヒントになります。

藤森代表「栽培と調理と共食が人類の特徴といわれ、収穫の数ヶ月先、半年先まで待てるのは人類だけ。そこに先を期待して希望や夢を持つのが人間です。卒園後まで待つことになる玉ねぎを育てたのは、いいですね」

(続く)

第4回 全国実践研究大会in仙台

2024/08/10

保育環境研究所ギビングツリー(藤森平司代表)の「全国大会」は、仙台市の「仙台見守る保育の会」(現在21の園が参加)が主催しました。年2回開催している全国大会は今回で早くも4回目です。初日の8月9日(金)は午前9時から8つの園が保育を公開し、たくさんの見学を受け入れてくださいました。参加園は北は青森から南は沖縄まで約80の園が参加する活気溢れる大会でした。

初日の午後は藤森代表の基調講演でしたが、話の前半は「やってみて確かめる」繰り返しの中で作り上げてきた保育実践を振り返りつつ、OECDの報告書などに触れながら、今後さらに乳幼児教育の質が問われる時代になっていくこと、そのために私たち乳幼児の保育の関わる者の役割が大きいことを話されました。

内外の最近の代表的な報告が紹介されましたが、そのうち、たとえば国が令和の教育改革で「個別最適な学びと協働的学び」を目指している中で、幼児教育がそのモデルになりうることに注目を促しました。また最近の国の子ども政策がどうしても子育て支援に偏っていることに懸念を示し、優れた実践を学び合い発信していく必要性に触れました。

記念講演は、自分らしく生きることを人権とダイバシティの観点からアーティストとして講演活動などもしている歌手の天童清貴さん。前半はお母さんも一緒に登壇いただいての座談会でした。ご自身のセクシャリティに悩んだ話とその葛藤を乗り越えて今の心境に至っている親子のストーリーを聞かせていただきました。後半は高校生と一緒に「ひまわりをさかせよう」など手話を交えてのライブ演奏を披露していただきました。どの歌もその歌詞も、その繊細さが身に沁みるものがありました。ぜひ皆さんも一度聞いてみてください。

こどもの情熱は生の軌道のズレ?

2024/08/09

遊びの情熱は「純粋持続」を生きようとする姿の表れなのだろうか? 私は勘違いしていたようだ。心揺さぶられるような経験をもう一度味わいたいと言う欲求が、表象になっているというより、世界よりも不完全でしかない表象の欠損部分をなんとかしようとして遊び出すようにも見えてきます。

思えば言葉もつねに言い尽くせぬものを抱え、同様に外界から受け取るイメージもまた部分でしかありません。世界を丸ごと認識することなどできないのに似て、子どもたちの再現欲求の強さは生の軌道からのブレの修正であり、否応なく現れてくる生きようとする力が、どうやってもはみ出してしまいながら、行動しようとしていることが遊びの姿の一部なのでしょう。

持って生まれてきたものと、短い間に経験したことの記憶を今に総動員しながら、あくなき一歩を前に進めようとしていること。確かに謎です。私たちの「生」が謎であるように。そのことを露わにしていながら気づかれないでいるかもしれない子どもたちです。

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