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園長の日記

子どもたちに、語る・聞く・討論するという体験を

2021/10/29

 

園だより11月号 巻頭言より

開園して3年目を迎えた当園は、今年度が一つの節目だと考えています。改めて初心に戻って保育の眼差しの質を高めなければなりません。十年一昔と言われた時代が昔あったのですが、現代は3年が昔の10年に当たるくらい、劇的なスピードで社会が変動しています。しかも取り返しのつかない地球規模の危機が迫っている中での1年ずつなので、組織としての強烈な意思が不可欠です。常にビジョンを更新しながら歩むことが必要な時代に突入しているのです。子どもたちが迎えることになる近未来を思い描くことは、大人の想像力、人権感覚が強く問われる時代です。それが今(いま)なのでしょう。

でも、日本で生活していると、私も含めてその危機感が希薄なのかもしれません。たとえばカーボンニュートラルに向けた再生可能エネルギー比率で、びっくりするほど高い目標値を掲げ、産業構造のパラダイムシフトを強力に引き起こしているヨーロッパ諸国の事例を見ていると、日本は大丈夫か?と心配になります。「日本は10年遅れをとった」(齋藤幸平)とすると、現代の10年は致命的かもしれません。

「21世紀型の市民が育つ出会いの場へ」。こんなテーマで汐見稔幸・東大名誉教授がこう述べています。「赤ちゃんの時からの市民教育を丁寧に」と題して「環境の変化によって21世紀型の地球市民の育成が課題となってきますが、その成果は、乳児期からの丁寧な人格尊重、アタッチメント体験、協働体験、文化体験等の保育・教育によってこそ大きくなります。特に子どもたちに、語る・聞く・討論するという体験を丁寧に保証することが大事でしょう。やがて具体化する義務教育の低年齢化の内実を丹念に作っていくことこそだが大事な課題になります」と(フレーベル館『保育ナビ』11月号)。

また続けてこうも述べています。私は全く同感です。「専門性のある人が自由に出入りし子どもたちに『本物の文化』を提供」と題して、「保育は、自ら育とうとする者を育てる営みですが、子どもたちが自ら育とうとなるきっかけのなかで大事なのは、子どもたちの深い興味・関心を誘発する本物の文化との出会いです。保育者が用意するものだけでなく、料理、栽培、制作、あるいは絵画制作、踊り、演奏、音楽、スポーツなどの一定の専門性を持った人との出会いが、子どもたちの予期せぬ興味・関心を深く引き出します。逆に子どもを通じて文化の本物性とは何かが学べます」というのです。

この保育のビジョンは当園のものと一致します。真性の文化への参加者、地球市民を育てるための保育はどうあるべきか。OECDはそこに焦点を当てています。そのビジョンは「世界は生き残れるのか」というグローバルな危機感と響き合っています。このビジョンについて、みなさんと語り合いたいですね。

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