保育士養成を担っている大学は、学士の資格も取得することになるのですが、そのために卒業論文を書かなければなりません。保育士資格や幼稚園教員免許を取得して先生になろうという学生の卒論は、大抵、保育や教育に関するものが多いのですが、当園には時々、その協力をすることがあります。
先週の11月26日(金)には、白百合女子大4年生がアタッチメントについて研究するために、アーサー・ミラーの絵本「ジェインの毛布」を読み聞かせにきました。複数の保育園や幼稚園で年長さんを対象に、同じ絵本を読んで、その感想を聞くという方法です。面白い研究方法だなと思いました。
ところで、子どもたちは、ふわふわしたものが好きです。毛布といえば、「ライナスの毛布」が有名です。スヌーピーが登場する漫画「ピーナッツ」でライナスがいつも毛布を持っているので、そう言われます。「ライナスの毛布」という言葉は、イギリスの精神分析系の小児科医でもあったウィニコットが「移行対象」の例として取り上げて、「安心毛布」という心理学用語にもなっています。
子どもは何かに依存しながら、だんだん自立していく発達の過程をたどります。ウィニコットによれば、安心で安全な心休まるところが、依存対象である<母親>です。成長するということは、そこから独立していく、離れていくことだといえます。
何から何に移行するのかというと、簡単にいうと<母親の乳房>から<ぬいぐるみ>などへ、です。その、中間にある物です。移行の最中の対象という意味です。
赤ちゃんは、最初、指をしゃぶったり、幼児は髪をしゃぶったりすることもあります。それが、徐々に自分の手や指ではなくて、毛布の端とか服の袖の端、タオルなどへ「移行」していく、というのです。ウィニコットはその対象を、「移行対象」と呼びました。
ぬいぐるみ、に象徴されるようなものは、大人も持っています。人によってはそれがタバコだったり、お酒だったり、最近はそれがスマホだったりする人がいるかもしれません。では、どんな状態が健全なのだろう?と、私はよく考えます。
私の結論はシンプルです。自立の反対が依存ですから、人は誰でも、その中間を行ったり来たりしながら生きています。大人も時には甘えが必要です。ですから、物や何かに一時的に依存するのはいいのですが、それがなくなると困った状態になってしまう「中毒」になることは避けたい、ということだろうと考えています。お酒を嗜む程度はいいとして、お酒には飲まれないように、というわけですね。
子どもにとって、何かに依存したり、甘えたり、その心の支えや安全基地があることは大切なことです。徐々に自立に向かう力を得ていくためには、必要な時に十分に依存したり、甘えたり、安心したりすることができる体験によって満足することが必要です。それが十分に満たされれば、その充実感から、自分で安心して離れていくようになります。外から離そうとするのではなく、十分に満たされるようにすること。そうすると「自分で」自立していく道を歩み始めるのです。
安心毛布は、懐かしく、温かい、心の故郷のような場所ですね。