社会情動的スキルについてのミニ連載は、今日「昭和の日」の4月30日で、ちょうど1週間になります。いろんな言葉が出てきて、中には似たような意味のものもあって、ちゃんと考えようとすると、「どんな子どもの体験が、それを習得する体験になっていくんだろう?」とか「どんなことを大切にしていったらいいんだろう?」などと、この日記を読まれている方は、そんな感想をお持ちかもしれません。ちょうど1週間なので、この4月に報告されているブログの内容を使って、GW期間に、そこを説明したいと思います。社会情動的スキルから見た「4月の振り返り」です。
ちっち組
「抱っこやひざの上が好きなRちゃんは、仰向けで寝転ぶといつも泣いて怒っていたけれど、機嫌の良いときにちょっとずつ、寝転びながら大人が顔をのぞいて一緒に遊んだり、玩具に興味を向けてみたり・・・を繰り返すうち、ひとりでゴロンとして遊べることも増えてきました。」(4月24日)
さて、ここにどんな「社会情動的」側面があるか見てみましょう。
社会情動的というのは、「社会的」で、かつ「情動的」ということですから「人と人の間」「人間関係」が前提としてあります。その人的環境の中にあって、移ろいゆく、いろいろな「心の動き」「心もよう」のうち、情緒、感情、意欲、意志などがそれにあたります。これらを情意面ということもあります。
ちなみに「考える」という「思考」の方は知識とか判断とかの側面ですが、認知面というとわかりやすいでしょうか。どちらも一緒に心の中で動いていて、切り離すことはできません。一緒に働くものだからです。それでも、あえて焦点を当てたいのは前者の方です。
この文章の中には「好き」「泣いて怒って」「機嫌」「顔をのぞいて」「興味を向けて」といった言葉が出てきます。これらは全部、社会情動的な側面といえます。好悪の感情、気分の浮き沈み、興味や好奇心、そうした情動的な心の動きは、子どもに限らず大人の誰もが感じたり、表していたりするものに思えます。赤ちゃんが、ご機嫌にノリノリノの時や、ご機嫌がナナメなときがあるのは、人間なので当たり前です。
この感情の起伏の中で、好きな人ができて、その人に安心感を求めて心の拠り所を形成していくことになります。その人にくっついていたいという愛着欲求が満たされながら、そこを心の基地にして周りの世界への探索が広がり、行きつ戻りつしながら情緒が安定していきます。私たちはこれを「愛着関係の成立」と呼んでいます。これが人間的ふれあい、ヒューマン・コンタクトでした。このように、人と気持ちを通わせながら、不安な気持ちや、それを衝動的に補おうとする心の動きが、あるスキルや能力、特性を育んでいきます。
Rちゃんの場合、ここで注目したいのは「情緒の安定性」と「開放性」です。一般に情緒が安定するのは、子どものさまざまな欲求を適切に満たしていくことで達成されていくのですが、これはケア=養護の原理になっています。ここで描かれているRちゃんの場合、抱っこされていた状態から一人での遊び方を獲得していく過程が描かれています。
ここでいう「情緒の安定性」とは、人格特性の「ビッグファイブ」の一つをさしています。それは「否定的な感情体験やストレス要因に対処する能力であり、感情をコントロールする上で重要なもの」になります。赤ちゃんが求める生(なま)の欲求をただ満たすだけではなく、それを満たしながらも、周囲の目新しいものや面白そうなものへの好奇心や探索欲求に働きかけるような環境を用意しておくのです。
するとRちゃんは、「泣いて怒っていたけれど、機嫌の良いときにちょっとずつ、寝転びながら大人が顔をのぞいて一緒に遊んだり、玩具に興味を向けてみたり」という感情コントロールの体験になっていることがわかります。その時に大切なものが、これもビックファイブなのですが「開放性」です。「開放性」とは「新しい経験に好奇心を向けていく傾向のことで、美しいものへの感性や多様性への受容などとも関係する特性」です。
このように、ちょっとした、一見なんでもないように見える赤ちゃんの姿ですが、そこには人格の骨格となると言われている「5つの特性」を育む体験になっていることが見えてくるのです。このような体験を、毎日、刻々と積み重ねながら、小さいうちから大事な社会情動的スキルを身につけていっていることがわかります。