先週末からノロウイルスと思われる感染性胃腸炎が私たちを脅かしています。集団生活の場である保育園のような場所は、病気をもらうリスクがあります。ポイントは、そのリスクをどれだけ低くするか、ということなのですが、「敵」の特性を知らないと、効果的な対策が取れません。そこで、共有しておきたい「基礎知識」を整理しました。
(写真はウイルスの模式図 『ウイルスと感染の仕組み』(サイエンス・アイ新書)より)
ノロウイルスはもともと牡蠣などの二枚貝をナマで食べるとおこりやすいと言われていますが、いまは感染経路は食中毒というよりも、経口感染によるものです。この寒い時期ににおきやすいです。小腸粘膜の細胞だけで増殖し、嘔吐物や糞便によって感染が広がります。水洗トイレも、いっぺんに汚染されます。感染者がウォシュレットなどを使ったら、その飛沫が飛んだところは十分あやしい、と思ったほうがいい。80度以上2分間をこえて加熱しないと死滅しません。
潜伏期間は12時間から72時間。発症までが早いとみるか、遅いとみるか。流行の波が一旦収まったように見えて、また症状が出るという波状型になるのは3日間、という潜伏期間の影響もあるでしょう。ノロウイルスに限らず、保菌する量は大人のほうが多いので、家族単位で防ぐ行動を取らないと移し合うということになりやすいのです。
ちなみに2002年にノロウイルス(Norovirus)と名付けられたそうで、知人が冗談で「ノロわれたウイルス」と言っていましたが、いろいろと調べてみると、最初はノーウォーク・ウイルス(Norwalk virus)と呼ばれていた病原体で、1968年にオハイオ州ノーウォークで集団発生したときの糞便から該当ウイルスが検出された、となっています。検出されたのはSRSV(小型球形ウイルス)で、その後1990年に全塩基配列がほぼあきらかになっているそうです。
それから持っておきたいイメージとして、もう一つ。専門書によると、世の中にいるウイルスは約5400種。細菌(バクテリア)は約6800種が発見されているそうです。コロンビア大学のスティーブン・モースによると、まだ見つかっていないウイルスは360万種になるのではないかという予想値もあります。コロナも変異を続けていますが、ウイルスは自分だけでは子孫を増やせない「変な生き物」です。
私は大学は生物化学(タンパク質合成)が専門だったのですが、生物学で言う「生物」の条件は、①遺伝子があって自己複製できる②細胞がある③代謝エネルギーで生きる、という3条件が備わっていないといけません。そうでないと「生物」に含めないことが多い。でもウイルスは遺伝子は持っていますが細胞はありません。しかも自律的には自己複製でき気ないので、他の生物(ホスト)に移って「生きる」と言う、非常に「かかわり」的な、共生主体的な、相互依存的な存在なのです。ヒトの身体もそうなのですが。
私が最も「面白い」と(言いうと語弊がありますが)思うのは、つまり生物学的にみて興味深いのは、代謝エネルギーももっていないのに、それでも「生きている」ということ。さらに今の私たちの進化の過程で、私たち自身の体がウイルスの一部を取り込んで、大事な役割を果たしてくれている部分もあり、身体機能的には共生してきてしまっているという事実です。
コロナの動向も、さらにワクチンの功罪も気になりますが、ここは感染症対策、手洗い清掃消毒、換気、滞りなくやっていきましょう。