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園長の日記

社会情動的スキル11 エージェンシー

2022/05/04

エージェンシーとは「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」のことです。2015年にOECD(経済協力開発機構)が発足させた「エデュケーション2030」(正式には、「OECD教育とスキルの未来2030」といいます)は、「ラーニング・コンパス」の中の中核的な概念になっています。

端的にいうと、子どもたちが大きくなった頃、自分や社会に変化を起こし、責任を持って社会に参画する力がどうしても必要になる。もう、これまでのように「お膳立てしてあげるから待ってなさい」では到底、間に合わない。世界の大きな変化に対応できる力(コンピテンス)を身につけてもらうしかない。・・・

確かに日本に住んでいると、こんな切迫感はあまり感じないで済んでいるかもしれません。OECDの議論を読むと、世界(地球)を襲っている変化は、並大抵のものではないことがわかってきます。これを「メガトレンド」と呼び、子どもたち(生徒たち)が立ち向かわざるを得ない問題が、すぐ目の前にあることに警鐘を鳴らしているのです。

例えば、AI(人工知能)など科学技術の発展、テロや戦争の増加、(ウクライナ戦争でもはっきりした)民主主義の後退、加速されていく移民や難民の増加、地球温暖化の最終局面、止まらない経済格差、雇用のオートメーション化と失業、肥満や自殺の増加・・・このような大きな問題が世界を覆っています。

そして日本はそれらのデータの中では、どれも危機が小さいので、呑気なままでいられるのかもしれません。ただメガトレンドの中で、日本がOECD加盟国の中でよくないのは、少子高齢化と自殺率の高さです。15歳の精神的幸福度も38カ国中37位です。

このようは背景があって、世界はこれまでの学校教育では、このメガトレンドに対応できない、どういう力を備える必要があるのか、という、その議論の中から出てきたものが、この耳慣れない「エージェンシー」という言葉です。OECDの報告書は「スチューデント・エージェンシーStudent agency」という言葉で使われています。生徒エイジェンシー、です。2015年のエデュケーション2030第4回会議(北京開催)で、イギリスの教育実践家として知られるチャールズ・リードビーターが提案したといいます。彼はTEDでも世界の教育の現状や未来の教育について説明していて面白いです。

チャールズ・リードビーター(TEDより)

日本語で、和製英語になっているエージェントというと、代理人という意味ですし、本人から委託された人が、代わりに契約をしたり交渉窓口になったりする人や組織を指します。旅行代理店は旅行エージェントですし、大リーグ移籍の交渉人も野球エージェントです。私はエージェントと聞くと、映画「マトリックス」で、キアヌ・リーブスを追いかける何人もの黒スーツのヒューゴ・ウィーヴィングを思い出してしまいます。

語源はラテン語の「行う」という意味の「agere」です。エージェンシーは、ウィキペキアによると「何かの外にありながら他の何かに影響を与える力」という意味がある、と出ています。OECDは現実のメガトレンドの濁流に押し流されないように、「私たちが実現したい未来」(The Future We Want )を作るために、生徒エージェンシーというキーワードを打ち出してきたのです。

私の手元にある書籍『OECDEducation2030 プロジェクトが描く教育の未来』(白井俊著・ミネルヴァ書房)は、その副タイトルが「エージェンシー、資質・能力とカリキュラム」となっています。エージェンシーとは・・・白井さんの解説を引用します。

「誰かの行動の結果を受け止めることよりも、自分で行動することである。形作られるのを待つよりも、自分で形作ることである。誰かが決めたり選んだことを受け入れることよりも、自分で決定したり、選択することである」(OECD  コンセプト・ノートより)。

私たちがよく使う主体性、という概念によく似ていますが、決定的に異なるのは、「私たちが実現したい未来」からのエージェント(代理人)というニュアンスがあるのではないかと、思います。白井さんが著しているこの本の中には、そうはっきりと書いていないのですが、これからの時代のことを考えるとそうなるのだろうと、想像しています。

社会情動的スキル⑩ 教育基本法との関係

2022/05/03

社会情動的スキルを育てようというとき、「能力」や「スキル」に比べて、あまり変化が望めない(と比較的おもわれがちな)「人格特性」「その人らしさ」の中で、どんなところに焦点を当てるべきなのでしょうか? まず教育基本法を確認してみましょう。その第1条(教育の目的)には、こう書かれています。

「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」

 

この冒頭に出てくる「人格の完成をめざし」とある、この人格がパーソナリティのことです。戦後すぐの昭和22年に、この教育基本法を定めたとき、制定の趣旨には「個人の価値と尊厳との認識に基づき、人間の具えるあらゆる能力を、できる限り、しかも調和的に発展せしめること」(文部省訓令)とされています。

また、その解説には「真、善、美の価値に関する科学的能力道徳的能力芸術的能力などの発展完成。人間の諸特性、諸能力をただ自然のままに伸ばすことではなく、普遍的な規準によって、そのあるべき姿にまでもちきたすことでなければならない」とあります。

 

「ただ自然のままに伸ばすのではく、普遍的な規準によって、そのあるべき姿にまでもちきたらすこと」。この表現の中に、教育の意図性がよく表れています。教育では、よく「ただ〜するに任せるのではなく、教育的な意図やねらい、育てる目標や子ども像をもつ必要がある」というのですが、ここにもその「意図性」の強調が見られます。

 

実際のところ、教育基本法は、その「その人らしさ」であるはずの人格について、4つの普遍的な規準によるとされた項目を持ち込んでいるのです。それが次の文章です。

「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」

 

①平和で民主的な国家の形成者

②平和で民主的な社会の形成者

③その形成者として必要な資質を備えること

④心身ともに健康であること

 

私は、この「民主的な社会の形成者」を育てることに大賛成ですが、この「形成者」になるために必要な資質とはどんなものなのでしょう。従来のままでいいはずはありません。

なぜなら、教育は「その人らしさ」を個人の尊厳として大事に守りながら、一方で望ましい社会、未来の社会を想定しなればなりません。教育には、この二つの視点が常に両輪として回っていく必要があります。ルソーが「エミール」と「社会契約論」の両方を書いたように、です。またルドルフ・シュタイナーが「自由の哲学」と「社会有機体三層構造」を著したように、そして千代田せいが保育園の保育目標が「自分らしく」と「思いやり」の両方を「意欲」でつないでいるように、です。個人と社会は切り離せないものです。

そうだからこそ、これからの社会を考えたときに、何が「普遍的で望しい規準」になるのでしょうか。私はこの規準を作り上げていくプロセスに子ども自身の参画、よりよいものを創造していくプロセスへのコミットメントが求められる時代になっている、と認識しています。それがどうあるべきか、と議論してきた検討した結果、 OECDは2030年までに達成してほしい教育プログラムの中に、子どもの主体性、正確には「エイジェンシー」という概念を打ち出してきたのです。エイジェンシーとは「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」のことです。

社会情動的スキル⑨ 誠実性(勤勉性)

2022/05/02

いつの時代にも、子どもの中にも人気者がいます。卒園していった子どもの中にも、みんなから慕われた人気者がいました。その子は、どの子にも分け隔てなく接し「優しくて誠実な子」でした。

教育はいつも、どこでも個人に色々な心理的な特性がある中で、それが個人の特性として、その人らしさである限り、その人としての「尊厳」は守らなければなりません。その一方で、教育は社会との関係の中で生きる人間存在の本質を考えたときに、その人の自由意志のもとで、よりよい結果に結びつく可能性の高い資質や能力は伸ばしていくことが求められます。

そこで、現在のところ、色々な「社会情動的スキル」の中で、何がよき結果に結びつきやすいのかというと、 OECDの研究報告では「目標を達成し、他者と協力して効果的に働き、自分の感情をコントロールする能力」だとされています。これが「子どもたちが人生において成果を収めることに役立つ」といいます。さらに「忍耐力、社交性、自尊感情なども重要な役割を果たす」とされています。社交性や協調性、情緒安定性を重要な要素に挙げています。

もう少し、研究成果を見てみましょう。よりよい結果につながりやすいとして、具体的に選び出された「非認知的能力」の中から15種類を紹介しているのが、小塩真司教授が編者の「非認知能力」という本です。

無藤隆さんが「心理学で実証された15種類の心理特性の研究から、①非認知能力は教育可能である②その教育は望ましい結果(学力や健康・幸福・社会的活動)につながる。本書から多くを学ぶことができた。広く教育・保育の関係者に勧めたい」と、その本の帯で推薦しています。

そして実は、その15の冒頭の最初の心理特性が、「誠実性」(勤勉性)であり、ズバリ人格特性そのものが取り上げられているのです。このパーソナリティ特性としての「誠実性」というのは、私たちが普段使っている言葉ですが、この人格特性は、「目標を達成し、他者と協力して効果的に働き、自分の感情をコントロールする能力」と強い相関があるというのです。誠実であるというのは、自分の気持ちに正直というだけではなく、「自分の衝動を社会の規範に沿って適切にコントロールし、課題指向的かつ目的指向的な行動をとる傾向」をさすそうです。具体的には「規律正しさや勤勉さ、慎重さ、責任感の強さ、計画性などをカバーする概念」だというのですから、そんな傾向を持っているなら、それは誰でも「いい結果につながるだろう」と思うはずですね。勤勉性という言葉を当てている場合もあり、人格特性の内容としては、同じになっています。

社会情動的スキル⑧ 人格との関係

2022/05/01

近年「ビッグファイブ・パーソナリティ」という言葉をよく聞くようになりました。このミニ連載のために読んでいるOECDの本「社会情動的スキル」や、参照している図書「非認知能力」(小塩真司編者・北大路書房)にも、登場します。先に、この言葉の意味を押さえておきましょう。

解説は早稲田大学教授の小塩先生です。心理学では人格のことを人格特性と言います。英語ではパーソナリティ・トゥレイツ(パーソナリティ特性)です。比較的、長期にわたって変わらない安定した特徴を示す言葉です。

「自分の性格は明るくて楽観的で、頼まれたら断れないたちです、よく『お人好しなんだから』って友達にからかわれます」なんていう話のときの特性です。

能力とかスキルではなく、その人らしさ、性格や気質と思ってもらえばいいのでしょう。

5つというのは、外向性、情緒安定性(神経症傾向)、開放性、協調性、勤勉性(誠実性)です。人の人格を考えるとき、色々な要素が複雑に入り混じっていて、いろんな見方や整理がされてきましたが、最近の心理学では、この5つが人格特性の傾向を考えるときに、主要な分析の視点になっているというのです。

小塩先生によると、「外向性は、活発で刺激を求め、他の人と一緒にいることを心地よく感じる傾向、神経症傾向は抑うつや不安や怒りなど否定的な感情の抱きやすさ、開放性は伝統やしきたりにこだわらず、新しい考えを求める傾向、協調性は他の人を優先して円滑な人間関係を営む傾向、勤勉性(誠実性)は真面目で目標思考的で規律に従おうとする傾向」(『非認知能力』(小塩真司編者・北大路書房)5ページ)だそうです。

この5つを育てればいい、という話ではありません。この5つの側面はその人の個性を捉えるときの特徴ですから、いいとかわるいではなく、その人らしさ、というものです。ただ、その特徴が今テーマにしている非認知的なもの、社会情動的スキルを考えるときに参考になります、という話です。

ちなみに小塩先生によると「能力」という言葉は、「何かを成し遂げることができる力や、その背後にある可能性」という意味があります。

また「スキル」という言葉には、「訓練などによって身につけた力というニュアンスを含む言葉」です。

そして「特性」は、「パーソナリティ特性のように個人に備わった心理的な性質であり、何らかの機能を持ちながらも時間的に安定した特徴」(前同)だと説明されていて、なるほど、と思います。

スキルも能力も特性も、なんとなく使い分けてきましたが、このような意味の違いが、確かにあるな、と思います。この本には、この能力、スキル、特性という言葉が持っているニュアンスの違いを表にしてあるので、紹介しておきます。

 

心理学的な個人差特性     能力◯ スキル◯ 特性◯

将来よい結果につながる可能性 能力◯ スキル◯ 特性△

生まれながらの要因(遺伝など)能力◯ スキル△ 特性◯

教育による変化の可能性    能力△ スキル◯ 特性△

 

スキルや能力は教育によって身につけることができて、それによって、将来よいことに結びつくというニュアンスを感じます。なので、社会情動的特性ではなく、社会情動的能力とかスキル、という言葉になっていることがわかります。

また話は戻って、人格特性の方は、持って生まれたもの、生まれながらにして持っていて、教育や経験ではあまり変わらないものを色濃く持っています。なので「社会情動的」なものを考えるときも、特性の方ではなくて、教育の対象となる能力やスキルの側面を考えましょう、ということなのでしょう。

ただ、特性は全く変わらない、というものではもちろんありません。変わらないなら、人格の涵養や陶冶を教育ではできないことになってしまいます。教育基本法はその目標が「人格の完成」を目指していることを思い出しておきましょう。

社会情動的スキル⑦ 情緒の安定性・開放性

2022/04/30

社会情動的スキルについてのミニ連載は、今日「昭和の日」の430日で、ちょうど1週間になります。いろんな言葉が出てきて、中には似たような意味のものもあって、ちゃんと考えようとすると、「どんな子どもの体験が、それを習得する体験になっていくんだろう?」とか「どんなことを大切にしていったらいいんだろう?」などと、この日記を読まれている方は、そんな感想をお持ちかもしれません。ちょうど1週間なので、この4月に報告されているブログの内容を使って、GW期間に、そこを説明したいと思います。社会情動的スキルから見た「4月の振り返り」です。

ちっち組

「抱っこやひざの上が好きなRちゃんは、仰向けで寝転ぶといつも泣いて怒っていたけれど、機嫌の良いときにちょっとずつ、寝転びながら大人が顔をのぞいて一緒に遊んだり、玩具に興味を向けてみたり・・・を繰り返すうち、ひとりでゴロンとして遊べることも増えてきました。」(4月24日)

さて、ここにどんな「社会情動的」側面があるか見てみましょう。

社会情動的というのは、「社会的」で、かつ「情動的」ということですから「人と人の間」「人間関係」が前提としてあります。その人的環境の中にあって、移ろいゆく、いろいろな「心の動き」「心もよう」のうち、情緒、感情、意欲、意志などがそれにあたります。これらを情意面ということもあります。

ちなみに「考える」という「思考」の方は知識とか判断とかの側面ですが、認知面というとわかりやすいでしょうか。どちらも一緒に心の中で動いていて、切り離すことはできません。一緒に働くものだからです。それでも、あえて焦点を当てたいのは前者の方です。

この文章の中には「好き」「泣いて怒って」「機嫌」「顔をのぞいて」「興味を向けて」といった言葉が出てきます。これらは全部、社会情動的な側面といえます。好悪の感情、気分の浮き沈み、興味や好奇心、そうした情動的な心の動きは、子どもに限らず大人の誰もが感じたり、表していたりするものに思えます。赤ちゃんが、ご機嫌にノリノリノの時や、ご機嫌がナナメなときがあるのは、人間なので当たり前です。

この感情の起伏の中で、好きな人ができて、その人に安心感を求めて心の拠り所を形成していくことになります。その人にくっついていたいという愛着欲求が満たされながら、そこを心の基地にして周りの世界への探索が広がり、行きつ戻りつしながら情緒が安定していきます。私たちはこれを「愛着関係の成立」と呼んでいます。これが人間的ふれあい、ヒューマン・コンタクトでした。このように、人と気持ちを通わせながら、不安な気持ちや、それを衝動的に補おうとする心の動きが、あるスキルや能力、特性を育んでいきます。

Rちゃんの場合、ここで注目したいのは「情緒の安定性」と「開放性」です。一般に情緒が安定するのは、子どものさまざまな欲求を適切に満たしていくことで達成されていくのですが、これはケア=養護の原理になっています。ここで描かれているRちゃんの場合、抱っこされていた状態から一人での遊び方を獲得していく過程が描かれています。

 

ここでいう「情緒の安定性」とは、人格特性の「ビッグファイブ」の一つをさしています。それは「否定的な感情体験やストレス要因に対処する能力であり、感情をコントロールする上で重要なもの」になります。赤ちゃんが求める生(なま)の欲求をただ満たすだけではなく、それを満たしながらも、周囲の目新しいものや面白そうなものへの好奇心や探索欲求に働きかけるような環境を用意しておくのです。

するとRちゃんは、「泣いて怒っていたけれど、機嫌の良いときにちょっとずつ、寝転びながら大人が顔をのぞいて一緒に遊んだり、玩具に興味を向けてみたり」という感情コントロールの体験になっていることがわかります。その時に大切なものが、これもビックファイブなのですが「開放性」です。「開放性」とは「新しい経験に好奇心を向けていく傾向のことで、美しいものへの感性や多様性への受容などとも関係する特性」です。

このように、ちょっとした、一見なんでもないように見える赤ちゃんの姿ですが、そこには人格の骨格となると言われている「5つの特性」を育む体験になっていることが見えてくるのです。このような体験を、毎日、刻々と積み重ねながら、小さいうちから大事な社会情動的スキルを身につけていっていることがわかります。

社会情動的スキル⑥ デイリープログラム

2022/04/29

この図は、OECDが作ったものを私が表にまとめ直したものです。「認知的スキル」と「社会情動的スキル」が、それぞれどんな要素で成り立っているのか、3つずつの要素をさらに3つでまとめてあります。この左側の方が「社会情動的スキル」です。

これを見ると、社会情動的スキルは、「目標の達成」「他者との協働」「感情のコンロトール」からなり、その構成要素の中には、忍耐力とか思いやりとか自制心などが入っています。当園の保育目標「自分らしく 意欲的で 思いやりのある子ども」の内容を、この社会情動的なスキルの育成と関連づけながら、保育の計画を立てることが大切になります。

このスキルにはどんな特徴があるのか、OECDの調査結果から学びましょう。

ます「スキル」と言うからには、学習によって身につけることができます。保育園なので学習というのは「遊び」の中で、と思ってください。遊んでいる時、生活している時に身につけることができるものです。能力とか特性となると、子どもによって身につける程度が変わってくる割合が増えるのですが、スキルは学べば習得できるというものです。

次のこのスキルは、認知的スキルとバランスよく身につけることが大切なものです。上の表は右と左に別々の分けてありますが、二つはお互いに重なり合っている、つながって影響しあっていると考えてください。二つの枠の間に⇄の矢印があると思ってください。

そしてこのスキルは雪だるま式に「スキルがスキルを生む」と言われています。乳幼児期から身につけることができ、最初に取得した社会情動的スキルは、認知的スキルの習得に好影響を与えながら、さらなる社会情動的スキルを高めていくことに役立ちます。「認知的スキル」と「社会情動的スキル」のどちらが影響するかというと、社会情動的スキルの方が影響する効果が大きいことがわかっています。

さらにこのスキルには習得に臨界期があり、それぞれの要素に身につけやすい時期というものがあることもわかっています。したがって、親も先生もそのことをよく理解して家庭や保育園、学校でどう対応したらいいのかを学ぶことがとても大事だと言われています。

最後にこのスキルを身につける方法は、今行なっている方法を大幅に取り替えるようなことが必要なのではなく、少しの工夫によって達成できるような方法だということです。そして、身についているかどうかの評価も可能であり、その方法も決して難しくありません。OECDの研究では、通常私たち保育者がとっている記録で評価ができるようなものです。

 

社会情動的スキル⑤ 朝のゾーン決め

2022/04/28

園だより5月号「巻頭言」より

年長のKHさんが朝のゾーン決めの司会をしています。「どのゾーンがいいですか?」 すると「はい!」「はい!」と手があがります。手が真上にピーンと伸びています。その手は「ねえ、ボクをあてて!」と主張しています。かわいいですね。

司会「〇〇ちゃん」

子ども「運動ゾーン」

司会「なんのゾーンがいいですか?」

子ども「パズルゾーン」・・・

こんな集団の中で会話を繰り返して、朝8時30分からの3階の生活が始まります・・

 

こんなやりとりを毎日、いろんな場面で繰り広げているわけですが、ここには「目標の達成」「他者との協働」「感情のコントロール」と言う、社会情動的スキルを育てるという大切な保育テーマが盛り込まれています。どこで遊びたいか、それぞれの目標を達成するために「他者との対話」を通じて、全体を通じて「協力すること」が求められます。その中で「最初にやるより2番目にやろう」とか、「先にこっちで遊んで、それまで待とう」とか、「今度はこっちにしよう」という「実行機能」が使われていることがわかります。

また、一方で今週から、すいすいを主に相手にした「園長タイム」が、朝の運動や午後の絵本の読み聞かせなどで、割り込ませてもらっています。30分から1時間ほどの関わりですが、その間に、子どもの特性を理解したり、興味や関心を把握したりしています。そこから見えてくるものは、これからの生活の道標になっていくのですが、短い時間ながら面白い発見がいっぱいです。

絵本を読んであげていると、単語の理解度や集中できる時間の長さ、面白いと思うポイントの違い、その子独自の反応の違いなどがあって、頭の中で何を想像しているのかが感じ取られて楽しいのです。今週は「エルマーの冒険」を読み始めましたが、やっとみかん島のクランベリ港に無事に到着しました。枝つきとうもろこしの袋と勘違いされて見つからずに済んだ件(くだり)は、その面白さがわかったかどうか、微妙な理解度だったあたりも、「どうかなあ、通じるかなあ」と思いながら読んでいます。ああ、そう言うことか、と後で微笑んでいる子もいて、いい時間だなあと感じるのです。

社会情動的スキル④ お手伝い保育

2022/04/27

園だより5月号「巻頭言」より

(お手伝い保育がはじまった25日(火)。「よろしくお願いします」とすいすいさん。にこにこ組へ)

年長さんになると「お手伝い」と言う活動が始まります。「ねえ、園長先生、お手伝い保育はいつからやるの?」と、何度か聞かれました。それくらい、新しい年長さんたちは、この活動を楽しみにしています。らんらんの時に、そばで年長さんたちがやっていたことを見てきているので、自分達も「やってみたい!」と言う意欲に溢れているようです。これも社会助動的スキルを育てることになっています。OECDのまとめによると、「社会情動的スキルは非認知的スキル、ソフトスキル、性格スキルなどとしても知られ、目標の達成、他者との協働、感情のコンロトールなどに関するスキルである」(「社会情動的スキル」52ページ)とされています。小さい頃から、生活と遊びの中で「見通しをもつ」ことは、これらの力を引き出す場面になります。そこで現行の指針や要領は「見通しをもつ」と言う文言が入りました。お手伝い保育は、この3つの体験が色濃く詰まったものにデザインされています。

3月は年度の始まりに向けて「わくわくした気持ち」を大切にして過ごしました。そして4月は新しい出会いの中で、期待と不安が入り混じった高揚した気持ちが、徐々に落ち着くべきところへ落ち着いていく過程の時期、アウェイがホームに変わっていく時期に当たります。心の揺れ動きが大きくて、楽しい!と寂しい!のアップダウンが激しかったり、泣いていたかと思うと、キャッキャと大はしゃぎの笑顔が溢れていたり、朝、すんなり登園できたりパパママとの朝の別れが辛かったりと、日によって見せてくれる姿が違っていたりしますね。私たちはロボットと違って、感情の生き物ですから、しょうがない。その時々の情緒の波があるのは当たり前でしょう。

4月末から5月初めはゴールデンウィークがあります。子どもたちと話すと、おじいちゃんやおばあちゃんと会ったり、いつもとは違う生活を楽しみにしているようです。どこどこへいくんだよ!ってワクワクしていますね。自然あふれる場所へ出かけたり、来年のランドセルを買うんだと待ち遠しそうに話してくれる子もいます。

G Wはちょっとまた長い家庭での生活になります。ちょっとお節介気味な話になりますが、4月は今述べたようなコンディションづくりの1ヶ月だったので、このリズムをできれば崩さないようにしたいものです。やっと毎日の生活リズムが出来つつあるので、早寝早起き朝ごはんの習慣はGW中も変えないでいけたらいいですね。私たちからすると、「根っこ」の部分がしっかり固まってきた鉢植えの土に蒔いた種が、これから芽を出そうという時に、鉢植えの土をひっくり返してしまうくらいのことだからです。

今度は、明日は、来週は、来月は・・・こうしたいね、と言う見通しを持って、生活を創り出していきましょう。

社会情動的スキル③ 「心の根っこ」を育てる

2022/04/26

子どもたちの発達を確かなものにするためには「根っこ」を太くすることがともて大事なのですが、抽象的に「根っこ」と唱えても、それが具体的には何をどうしたらいいことなのかがわかりません。

(マスクの使い方のマナーを学ぶ子どもたち)

 

そこで私たちは乳幼児期からの発達課題を押さえることを勉強します。一人ひとりの、そうあってほしい「子どもの姿」を思い描きながら、そうなっていくために必要な体験を計画していくのです。でも一般的な発達課題が、どの子どもにもそのまま当てはまることはなく、個人差である個性を捉える必要があります。今日は、そこに焦点を当てた話し合いをしました。先生たちから子どもがどのように見えているか、その子どもの特徴は何か、そこから見えてくる配慮や保育のポイントは何か、という話し合いです。

その時に大事にしている視点は、心理学で言うとパーソナリティ、日本語では人格特性というものですが、そこには誰でも凸凹があって、その「デコとボコ」のボコの由来を捉えるようにします。一般に私たちの人格特性は、持って生まれてきた生得的な部分と、生まれた後で経験することから育つ部分との合作です。二つの要素が相互作用して、影響しあって形作られています。その二つをきれいに分離することはできなくて、それは四角形の底辺と高さみたいなものなので、その面積のうちどこまでが生得的なもので、どこまでが経験的なものかはわかりません。それでも教育によって面積は大きくできるのです。

しかも「根っこ」はその図形が台形だとしたら、底辺をしっかり大きくして安定した形にしてあげる必要があると言うことになります。底辺をしっかり広くすると、その上にたくさんのものを載せることができます。底辺が短いと、その上に多くのものは乗らず、いつかバランスを崩して倒れてしまいます。そんなイメージです。

発達課題としての根っこは基本的信頼感、自己への自信、揺るぎない情緒の安定感などが挙げられます。大好きな人(親や先生など)から認めてもらえているという安心感、そうしたものに包まれながら、不安感のない屈託のない笑顔が湧き出てきて、わがままぐらいな自己主張ができ、「今日はこんなことしたんだよ」と毎日を楽しそうに振り返り、「明日はこうしたいんだ」と言う期待や希望をもち、安心と満足の中で夜眠りにつき、朝元気に目が覚める。赤ちゃんなら自分の手や足を自分で触ってたしかめて伸び伸びと遊び(ちっちのブログ)、五感を使って感触を楽しみ、相手と気持ちを通わせることを好むような3つの関わり(身体・精神・社会)を体験していきます。

幼児になっても、赤ちゃんの頃に親しんだ世界との関わり方は、何度も繰り返し必要となります。大人に心の余裕があるときは、ちょっとそうした温もりのある心で子どもの心を包み込んであげましょう。それが根っこを太くしていくことになるでしょう。

社会情動的スキル② 交通安全指導

2022/04/25

今日25日(月)は、万世橋警察署の方に来ていただいて「交通安全指導」教室を開いていただきました。にこにこ組は2階でスクリーンに投影した動画で、わいらんすい組は3階で、模型の信号を使って横断歩道の渡り方を学びました。「右見て、左見て・・」を知っている子どもたちでしたが、大半の子どもが実際にやっていることは、ただ右や左に顔を振っているだけで、車や自転車が走ってくるかもしれない、と「見よう」としていません。

中には首振り人形のように、左右に ブルブルと動かす首振り人形になっている子もいて、わいわい(3歳児)くらいだと、振り向くことと見ることがつながっていない子がほとんどと言っていいでしょう。「右見て、左見て」のポイントは、どこを見るんだっけ?どうして見るんだっけ?を意識できるようになることでしょう。そっちを振り向いても「自分で」「よく見えてない」と気づいて、自分で「まだ歩き出さない」、「確かに今なら大丈夫」という判断力や自制心、行動コントロールへの意欲を育てることが、交通安全指導における社会情動的スキルの育て方になります。

このことを「3つの資質・能力」の育ちから考えるとどうなるでしょうか。安全に道路を渡るという、リスク回避力を身につけるシンプルな行動目標を達成するため、3つの側面が関係しあっていることがわかります。

信号の意味の理解(知識)、右や左を見る行動スキル(技能)、その知識や技能を使って「今なら安全だな、よし渡ろう」という思考力と判断力が働くこと、そのためにエンジンとなるのが「よし、やってみよう」という前向きな意欲、「できたあ!」という達成感から作られる満足感や自己肯定感、そして何度もやって褒められながら(支えられながら)できた体験から静かに育っていく「情緒の落ち着き」や「明日への期待」、そして自分への信頼感など、「心の根っこ」の部分が耕されていくのです。

道路の信号を守って渡ることは「大事なことだ」という認知的スキルと併せて、今述べたようは非認知的スキルがバランスよく育つこと。これが交通安全指導でも、将来の健康で安全な生活(質の高い幸福な生活)を作り出すために必要なことだということがわかりますね。

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