2歳児クラスのにこにこ組が、3階で遊び始めました。この時期の「移行保育」で大切にしていることがあります。それは決まりを守ることを子どもなりに「納得する」ことです。私たちの生活には、いろいろな決まりがあります。そうした決まりに子どもが気づくとき、「あ、それは守らなくちゃ」と子どもなりに納得するような気づき方ができると理想的です。納得して決まりやルールを守ろうと思うようになるには、どうするといいのでしょうか。
決まりやルールには、「物」に関すること「事」に関すること、そして「人」に関するものがあります。
物に関するルールや決まりには、「ものを大切にする」「ものを壊さない」などの決まりがあります。それができるようになるには、その物への愛着から「なくなるとイヤだな」「壊れると可哀想」という気持ちから「大事にする」につながるといいでしょう。おもちゃや人形、絵本などを大事に扱うようになってほしいと大人は思います。
そのためには、まず「ものは壊れる」という事実を子どもが知ることが必要なのです。実は子どもはそこがわからないことが多いのです。大事にしよう、とか大切に扱おう、と伝えても「大事に」や「大切に」という言葉は抽象的すぎて、子どもにはわかりません。子どもは興味があると、それを触りますが、結構、手荒に扱います。本人はそれが「乱暴」であるとは思っていません。大好きはぬいぐるみを振りまわし、ちぎれてしまうこともあります。
ですから、壊れては困るようなものを子どもに与えておいて、壊されてしまって子どもを怒るようなことはしないようにしましょう。子どもは壊してしまうものだとまず思っておきましょう。
それでもある時期から、大事にする、大切にするという意味がわかるようになっていくのですが、その秘訣は子どもに「物の立場になってもらう」のです。ものへのケアです。子どもが物へ心を寄せるようなことができる中から、大切にしようという気持ちが育っていくでしょう。
もう1つの「事」への決まりやルールですが、これの秘訣は、それを守ることで「いいことがある」という期待が持てるといいでしょう。こんな話を満3歳ぐらいの子どもたちは理解できます。
「みんなは乗り物が好きだよね。自動車に乗るとね、いろんなところへ自由にいくことができるんだよ。いいでしょう。でもね、1つ守らないといけないことがあるんだよ。なんだと思う? それはね、信号を守るってことなんだ。信号を守らないと乗り物がぶつかって怪我をしてしまうんだ。みんな怪我するのはイヤでしょう。だから、車で自由にいろんなところにいくことができるように、信号を守るんだよ」
決まりを守ると、いいことがある。そういう体験をこの時期にはたくさんできるといいでしょう。決まりを守れば、手を洗って気持ち良くなる、食事の配膳をしてもらえる、外へ遊びへいくことができる、いろいろなルールは「楽しいこと」「嬉しいこと」につながっているんだ、と感じることです。
そして「人」への決まりは、相手が喜ぶということです。ルールを守ると相手が嬉しい感じ、それが自分も嬉しいと感じることができるといいのです。相手が困ることは自分もイヤだなという気持ちを育てることです。自分が良ければ他人のことはどうでもいいという心で止まってしまうと、決まりは生きたものになりません。
たとえば心がこもらない言葉は、ルールから心を奪ってしまいます。「ごめんね」を形だけで「言わせる」と、それを言えさえすれば、許してもらえる「魔法の言葉」になってしまいます。何か相手に悪いことをしたとします。条件反射的に「ごめん」と言います。それでは言われた方は、「いいよ」と許してあげたくなりません。するとまた「ごめんね」と言います。何度もごめんを繰り返すかもしれません。でも心のこもっていない「ごめん」は、「いいよ」になりにくいのです。
口ですぐに「ごめん」と言えることよりも「ああ、悪かったなあ」と思える心が先です。それがあれば、謝られた方も「いいよ」と許せるようになるのです。ここに心を通わせるという大切なものがあります。それがない社会的なルールは形だけのものになってしまうのです。
社会的な規範が成り立つのは、このように物、事、人との関係の中に、ケアリングと呼ばれる「心を配ること」ができる心の育ちが必要なのです。それがない社会の決まりは、形骸化したものでしかないでしょう。