◆対照比較ができない子どもの経験
何かを明らかにする科学的な方法で、最も分かりやすいのは、<条件群>と比較することです。「比べてみて、ほら、こっちの方が○○でしょ!」と言えれば、一目瞭然です。
保育でもそれができればいいのに。そう思うことがよくあります。
ある経験をしているから、きっといい成長を見せるだろう。その経験をしていないときと比べたら、きっと良くなっているに違いない。私たちは、それを信じて、その経験が生まれるように保育を計画しています。
「でも、本当に、その経験はいい経験なんでしょうか?その証拠(エビデンス)はありますか?」
実は、そう聞かれると、困ってしまうことが結構、多いのです。
「成長している姿は、本当にその経験が原因なのでしょうか。それとも、そんな経験がなくても成長しているかもしれないではないですか」
こんな風に突っ込まれたとき、私たちはどう説得力を持って説明できるのでしょうか?
今日のバス遠足では、そんな事を考えることが多い体験の連続でした。
◆ギャラクシティでの経験の意味は?
今日「西新井駅」からすぐのところにある足立区の施設「ギャラクシティ」へ、わいわい、らんらんの17名でバスで出かけました。
主に運動をしにいったのですが、その前に、「科学実験」を見せてもらう機会がありました。
ギャラクシティにはいくつもの体験ゾーンがあるのですが、その一つの「ものづくりガレージ」で、今日は「空気」に関する実験を見せてもらいました。実験は次の3つです。
(1)空気には重さがあるの?
(2)空気はどれくらい重いの?
(3)小さい丸い穴から思いっきり空気を押し出すと、空気はどんな形でどんなふうに飛び出すの?
もし、こんな質問を子どもから受けたら、どうやってそれを「説明」しますか?子どもが「なるほど」と見て納得できるような説明ができますか?
ただし(3)のような質問の仕方を、子どもがすることは、まずありません。今日は「空気砲」を見せてもらったのです。あえて、それを私が質問という形に噛み砕いて表現してみただけです。
◆空気にも重さがあることの証明実験
この証明はいたって簡単な方法でした。2つの風船がバランスよく釣り合っています。一方の風船から空気を抜くと、どうなるか?その結果が「空気にも重さがある」ことの証明になっています。この説明、皆さんは、どう思いますか?すんなりと、納得できますか?
今日は黄色の風船の空気を抜きました。すると、風船の天秤は緑の風船の方へ傾きました。つまり黄色の風船は、中に入っていた空気がなくなった分だけ軽くなって、緑の風船の方に傾きました。
これは自然科学的な真実です。空気は主に窒素と酸素でできていますが、目に見えない気体であっても、質量のある物質ですから、重さはあります。
◆日常の経験の積み重ねだけでは、科学的真理に至りにくい
でも、生活の経験の中で、空気に重さを感じることはありません。確かに「空気抵抗」は感じることはできます。でも手で持ったり、器に注いだり、手のひらに乗せたりできないので、いくら生活経験を積み重ねたところで、自然と空気には重さがある、これくらい重い、などと経験することはないはずです。
だから子どもには、2つの風船の天秤が傾いたから、「なるほど!空気には重さがある!」、と理解できたとは思えません。実際に、子どもたちの様子を見ていると、ふーん、という感じです。大人が面白いと思う科学実験の多くは、3〜5歳の子どもたちには「ピンとこない」ことが多いのです。
ですから、私の持論ですが、乳幼児にとって大切な科学な経験は、面白い!不思議だ!と思えたらしめたものです。非認知的な感動をたくさんしておくことが大切なのです。
◆CEDEPが研究調査に来園しました
テーマは違いますが、同じ文脈のことを証明したのが、ノーベル経済学を受賞したジェームズ・ヘックマンですが、その話はまた別の時に詳しく説明しましょう。追跡調査によって対照比較をやった研究者です。その結果、非認知的なスキルの重要性を証明したのです。当然ながら、千代田せいが保育園の保育もその知見を熟知した上で実践しています。
実は今週18日の月曜日、国の研究機関が千代田せいが保育園を視察調査にきました。この研究機関が日本にできた契機になったのもベックマンの研究結果をOECDが取り上げて、世界的に乳幼児教育に力を入れる機運が醸成されたからです。
ちなみに、これを社会情動的スキルと同じだという説明が多いのですが、本当は異なります。それも含めて別の機会に。
◆空気はどれくらい重いか?
さて、質問の(2)空気はどれくらい重いか? これを説明するために用いられたものは、30センチ四方の大きな吸盤でした。
机が持ち上がっていました。椅子もくっつきます。どうしてこんなことが起きるのでしょうか?その説明はこうです。物の周りには空気があります。その空気には重さがあって、それが押しているから吸盤は外れない、そんな説明です。
これも私たちの生活経験からはピンと来ませんよね。今日はそれ以上の説明があったわけではありませんが、1気圧は1センチ平方メートル(1㎝×1㎝の小さな四角形)に、10メートルもの高さの水の柱が乗っている重さ10キロです。30センチ四方の吸盤ですから、その30×30で90倍もの水の柱が押していることになります。つまり900キロです。吸盤は900キロの重さで引っ張らないと外れません(吸盤が壊れない限りですが)。これが自然科学が教える真理です。
生活実感から、すんなり導かれないからこそ、直感的に納得しにくいのが科学的な知見だとも言えるのですが、このような理解は、かなり理知的なものです。
一方で、幼児は五感を通じてしか心には響きません。まだ抽象的な理解はまだ難しいのです。家庭にもある吸盤で椅子を持ち上げると、面白そうに見つめていた子どもたちです。
◆空気砲の輪に感動する
以上の2つの科学実験が、無意味だったかというとそういうことはありません。風船がしぼんだら天秤が傾いたこと、吸盤が大きな机を持ち上げたこと、そうした光景が目に焼きつき、これからの生活の中で、ことあるごとに、その光景を思い出すことでしょう。そして、その経験をもとに、いろいろな推量がなされていくに違いありません。
それに引き換え、3番目の空気砲の実験は、どうして、という説明は抜きです。輪がどのように動いているか「よく見てみてね」ということだけでした。これでいいんです。この空気砲、かなり深〜い、現象なのです。小学生になってから、改めて「どうしてだろう」って本気で探求するような子になるかもしれませんね。
例えば、こんな質問に正確に答えるには、結構難しいのです。なぜ輪になるのかな、輪になっている柱の太さはどうやって決まるのだろう、なぜその方向に回るんだろうか、出発してからたどり着くまで、なぜあまり速度が落ちないんだろう。そんな流体力学の不思議がいっぱい詰まった現象です。説明する切り口が多様すぎるくらい、面白い現象だと感じます。
子どもたちには、この輪が流れていく映像がしっかり目に焼きつきました。私の願いはただ一つ。どうしてだろう?と、非認知的なスキルである探究心に繋がって欲しいということです。
その反対が「あ、知っている!」という認知的知識の習得で終わってしまうこと。そして願わくば、学校でも「答えのわからない問いの方が人生には多い」ということをぜひ教えてほしいものです。
◆大型のネットドームで遊ぶ
さて、ギャラクシティの最大のウリは、大型のドーム型のネット遊具です。11時から30分間、千代田せいがの団体専用で使わせてもらいました。
ドーム全体の形は、ちょうどリンゴや梨などのくぼみのある球体を、水平に半分にカットした下の方をイメージしてください。そんな半球体が3層のネットになっているような構造です。
1階と3階のネットは建物の入り口から出入りできるのですが、それに挟まれた2階のネットは1階か3階のネットからしか行けません。
説明を受けた後は、思い思いに遊び始めました。
どんどん中に入っていって、隅々まで歩き、はい回る子どもたち。
大きくたわむネットの感触を、全身でも感じています。子どもたちは最初は恐る恐るといった様子でしたが、すぐに慣れてくると、滑ったり、転げたりと、大胆な動きを楽しみ始めていました。
ただ、なかには「怖い」といって中に入らない子もいました。大きなネットの目は細かいので、絶対に落下することはないのですが、一番下まで透けて見えるので、高さが怖いとも感じたようです。また大きな構造体なので、その大きさに怖さを感じていたかもしれません。
◆らんらん、すいすいに向いている施設かも
今回は通常の水曜日のバス遠足に加えて、試しに体験してみたギャラクシティですが、今日選択したゾーンは年中、年長に向いていたかもしれません。年少さんには、新鮮味はあったかもれませんが、その面白さを味わうにはあと一年後かな、という印象を持ちました。木場公園などの自然公園での遊びに代わるものではなく、あくまでもプラスとして体験してみる、位置付けがいいかもしれません。そんな感触を、担任の先生たちも持ったようです。
最新の光学テクノロジーを使った影絵遊びのようなものや、プラネタリウムなどもあるサイエンス施設でした。お休みの日、親子でも楽しめるゾーンがあるので出かけてみてください。