MENU CLOSE
TEL

園長の日記

他罰性の心理をめぐる考察

2020/02/01

◆免疫力や抵抗力も高めましょう

今日は電気に依存した機械が急に動かなくなったので、急いでその対策を講じることに追われました。このようなことが起きると、バップアップや代わりの手段を用意しておくことをシミュレーションしておきたくなります。新型コロナウイルスでWHO(世界保健機構)が緊急事態宣言を出すと、店頭からマスクがあっという間になくなりました。リスク回避能力は、経験と学習から育つものも多いのですが、病原体に関しては侵入を防ぐことですね。手洗いやうがいはもちろんのこと、子どもの心身の健康を維持増進するためのポイントは、大人にも通用します。また心が疲れていると病気になりやすくなります。栄養、腸内細菌、運動、睡眠、休息にも目を向けましょう。やはり自分の免疫力や抵抗力を高めておくことが大事だと感じます。

◆増え続ける煩雑な手続きが人間性を麻痺させる

保育の仕事をしていると、子どもの心の健康を考えることが多いのですが、この日記で以前、人類学者のデヴィッド・グレーバーの著書『官僚制のユートピア』を紹介したことがあります。この本のタイトルはもちろん皮肉です。官僚制賛美の本ではなく、現代社会の特徴として、ペーパーワーク的な仕事が増え、人間としてのシンプルな生活に専念できないというジレンマがなぜ生まれるのかを探求しているのです。人間の内面にまで官僚制が侵食してきていることに警鐘を鳴らしている本です。私はこの本を読んでいると、現代の社会がいかに心の健康に良くないかということに気づかされます。

◆私たちの人間性を振り返る

規制を緩和して自由競争を進める新自由主義社会になれば、煩雑で手続き的なルールに縛られなくなると思っていたら、現実はそれとは正反対になってしまいました。どの企業でも起きている書類や印鑑に象徴されるような煩雑な手続きをが増え続け、つい最近発明された企業の接客態度やクレーム処理をめぐる振る舞いなども、唯一の正解かのように思い込まされています。これらの行為を、私たちは当然視するようになってしまいました。

これら問題は、社会学で重要なテーマとして研究されています。人類が共生社会を維持するために、動物は力関係を権威と威圧と暴力で構築しました。しかし、ホモ・サピエンスはそこにとどまらず、協力と和解を生み出して進化させたのです。それが「笑顔」でした。生まれたばかりの赤ちゃんは生理的微笑という「笑顔」で親の養育を引き出します。

官僚的社会は、人が「生きる意味を考える」ことから遠ざけさせる、人間力の形式化、空洞化のテーマとして考察されてきました。これは自覚の可能性が問われている問題なので、共有することがとても難しいテーマにもなっています。

◆多様性から協働性へ

このような社会を変えること。それに気づく大人を増やすこと。これは生涯教育の大切なテーマなのですが、環境に適応することが上手な人間は、知らず知らずに、周りの環境を変えることが「自己実現」になると信じ、バラバラの価値観が多様化することに歯止めがかかりません。今年の新年会で藤森統括園長から頂いた色紙の言葉は「多様性から協働性へ」でした。

◆豊かさと他罰性、貧しさと自己罰は結びつきやすい

さて、佐々木正美さんの講演をまとめた本「生き方の道標 エリクソンとの散歩」(子育て協会)の冒頭に、こんな話が語られます。引用します。

文化人類学の方面から人間ということを考えますと、地球上ほとんど至る所にいろいろな種族、民族、いろいろな人間が住んでいるわけではありますが、経済的、物質的に豊かな地域や文化圏に住んでいる人間ほど、外罰性とか他罰性という感性を強く持っていると言われます。外罰、他罰というのは、何か不愉快なことがありますと、自分以外の人を罰したくなる、そういう感情、感覚、感性のようなものであります。人のせいにしたくなるとでも言いましょうか。卑近な例を申しますと、仮に幼い子どもの手を引いて自分の家の周囲を歩いていて、ちょっと親が心の隙を作ったときに、子どもが親の手を振り払って、ちょろちょろって歩いて行って、転んで、運悪く道の端のドブ川へ落っこちたとします。この場合、「ああ、しまった、いけない」と思うだけで済ませれば、それは自己罰であり、内罰でありますが、同時にこのどぶ川の管理責任者は誰だろうという感情が湧き上がったとします。こういう人通りの多いところにどぶ川をオープンのままにしておくというのは許しがたい、この道とどぶの管理責任者は誰だ、という感情に自分が支配されたとしますと、この部分が外罰であり他罰であります。経済的に、あるいは物質的に恵まれない社会に住んでいる人の場合は、おそらくこんな時に、こんな外罰的な感情は湧き上がらないというわけであります。豊かさと外罰、他罰性、貧しさと内罰、自己罰という感情が結びつきやすい。これは人類としての特性だそうです。

・・・・・・・・・

私もこんな感情にとらわれることがあります。皆さんはどうでしょうか。この感情が湧き上がってくるとき、私の中に感謝する心が足りないな、と反省します。人間関係力を小さい時から育むことがいかに大事か、保育園の子どもたちの様子を見ていると、強く感じてしまいます。

 

 

top