もちろん、この半年、3ヶ月、そういった期間によって成長しているのは年長児だけではありません。ちっち・ぐんぐんの今日のクラスブログには、乳児が協力したり、手伝ったり、教えたりする姿が報告されています。お友達がやっていたこと、やってもらったことを「真似て」やり始めているのですが、考えれば考えるほど、不思議な乳児の力だと思えてきます。今日は、この乳児の模倣力について、ちょっと深く考えてみましょう。
この模倣する力は、人類の親戚であるゴリラ、チンパンジー、オランウータン、ボノボといった霊長類も持っています。親や兄弟がやっている姿を見て、真似をして自分もできるようになっていきます。ところが、真似ると言っても、人類しかしない真似の仕方があります。それは他の霊長類にはできません。どんな真似かというと私が「意図込みの模倣」と呼んでいるものです。表面的に同じ行動や仕草をまねることをよく「猿真似」と言いますが、そうではなく、何の目的でそうしているかを、ごっそりとその目的や意味もまるまる理解した上で真似をしていく模倣です。これは人間しかできません。目的や意図を理解しているので、そのための手段をアレンジできるのが人間の模倣なのです。
エプロンをつける、おしぼりをおく、汚れ物を袋にいれる。こうした行動の意味を、1歳半ぐらいから理解できます。ですから「エプロンをつけてもらう」ことも「おしぼりをもらう」ことも、何かやってもらったことは、その目的と手段をセットで真似ができます。やってもらったことをやることは簡単なのです。
こんな有名な実験があります。大人がスイッチを手で押すと電気がつきます。それを見せると、赤ちゃんは真似をして手でスイッチを押して電気をつけます。ところが大人が手に荷物を持っていて手が塞がっているときに、「頭」でスイッチを入れると、赤ちゃんは「手が使えないから頭でやったんだな」と判断して、自分は手でスイッチをつけます。ところが、手が塞がっていないのに、大人が頭でスイッチを押すと、「わざとやったんだな」と理解でき、赤ちゃんも頭でスイッチを押すのです。あるいは大人が手が塞がっていて、ものを取ろうとしていると「察する」と、代わりに赤ちゃんがものをとってあげることをします。「困っているんだな」とわかるのです。
このように、他人が「〜をしようとしている」という意図を理解したり、「〜に関心があるんだな」と注意対象に注目できたり、意図や目的をなし遂げるための方法を変えてみたり、そういうことを2歳前後にはできてしまうのです。どうしてそんなことができるようになるのか、という理由の説明は、人類の進化論からの説明や、脳内の神経ネットワークの特徴などから説明が試みられていますが、私たち保育の実践者が心得ておきたいポイントは、こうした行動の背景にある他者への信頼と共感力の育ちです。その情緒的な心の通い合いがある仲間意識という集団の育ちがあって初めて、このような意図込み模倣は成立するということです。赤の他人の間で、このような姿を見ることはありません。