今日も一冊の絵本を4歳の男の子とよんだ。いわむらかずおの「ねずみのかいすいよく」。いま大きめの書店にいくと「夏の絵本特集」をやっていて、1986年に発行されたこの絵本も並んでいるから、かなりのロングセラーだろう。いわむらかずおといえば、「14ひき」の方を思い浮かべるはずですが、ねずみの7つ子シリーズの方も、あの自然と家族をあったかく描いていて、同じ世界が展開されています。
彼の絵本は、見開きの絵を、じっくりと味わえるのが楽しい。1匹ずつのやっていることを、確かめながら、次の展開をワクワクしながら進んでいく。先にお話があって、それに理解を促すために挿絵が付いているようなものとは次元が違うんです。絵のクオリティがすごい。一枚一枚の絵とその世界が深い。本人も雑木林に住み、農作業をしたり、丹念に取材して生き物を深く理解していないと描けない世界だから、ずっと大切にしておきたいと思える絵本ですね。
ところで、彼の描くどうぶつは、みんな純粋でいい人(動物)ばかりで、野ネズミたちが、自然界の厳しい現実や生活の知恵に目を見張る姿に、こちらまで共感してしまって、大人も心を動かされるのですよね。それにしても、このねずみたちが驚いたり、心配したり、ほっとしたりしている気持ちを、7ひきにしても14ひきにしても個性的に描ききる表現力はすごいですね。点で描いた目があんなに豊かな表情を描き出すというのは、見事です。
1939年生まれの本名、岩村和朗が、どうやって絵本作家になっいったのか、そこで何を大切にしてきたのか、どうして美術館の活動をしているのか、そうした経緯を辿っていくと、ちょっと話は長くなるのでやめますが、ただ保育と絵本の関係を考えるとき、彼が大切にしている1つの信念を紹介しておきましょう。実に平凡な結論なのですが「自然の体験が心を豊かにするもとになる」ということです。
「絵本だけではなく、自然の実体験をたくさんもつことは、心を豊かにするもとなると思うんです。音楽を聞いたり、絵本や小説を読んだときでも、そこに描かれたことが心を揺さぶるのは、そういう自然の体験がもとになっていると思うんです。ふーっと風に吹かれた時の感覚が、ある表現と接した時によみがえるような、何かそういう体験をたくさん持っているといいんじゃないかなあ」(「別冊太陽〜絵本の作家たちⅢ」2005年)