科学実験は色々なものがありますが、私の好みは普段の生活の中で何気なくやり過ごしていることを、改めて真正面から取り上げて、実験や観察をしてみるというやり方です。大人もびっくりするような美しさや不思議さと出あうことができます。この方法は日常的に使っている感覚を「拡大する」という方法です。私は「虫眼鏡理論」と名付けました。見る、聞く、味わう、かぐ、触るという五感の機能を拡大するのです。例えば「見る」の例なら、虫眼鏡や顕微鏡や望遠鏡で「見る」のです。そうすると、肉眼の解像度では見えなかったものがより「見える」ようになります。小さいものを大きく、遠いものを近くに見るのです。
これは視覚の例ですが、聴覚も味覚も嗅覚も触覚も「拡大する」ことができます。そうすると、それまでの世界が全くちがってくるのです。同じ世界のはずなのに、全く異なる美しい真実を見せてくれるから面白いです。
今日は「サラダドレッシング」をじっくりと観察してみました。すでに混ざっているドレッシングを見るのではなく、水と油の段階からそれぞれをじっくりと見るのです。具体的には次のようにやってみました。
ガラスの瓶に水道の水を入れます。そこにサラダ油を注ぎます。油はボコボコと入っていくと、最初は油の水玉ができますが、しばらくすると透明になって、水の上に層を作ります。それだけでも「わあ、きれい!」という感想が漏れます。
そこへ、子どもたちが大好きな絵の具に登場してもらいます。今日は青と赤を使いました。絵の具を水で薄めてスポイドでそーっと垂らします。ここからは大人も未知の世界になります。
赤い水滴は丸くなって油の層の中を落ちていくのですが、そのまま通り抜けて水の層へ落ちていくかというと、そうなりません。水と油の境目の膜のところに留まります。しかもその膜が少し凹んでいる状態になります。それをすいすいのJくんは「油が底みたいになった!」と表現しました。
青と赤の水玉は、引き合って集まってきます。すると、しばらくすると、その重さから水と油の境目の膜が遂に破れて、す〜っと色水が水の層の中に流れ込んでいくのです。色水の方が真水よりも重いので、ガラス瓶の底に溜まっていくのです。
この一連の出来事は美しく、私は「この実験はね、心が落ち着く実験なんだよ。気持ちが綺麗になっていくんだよ」と説明すると、深い沈黙と納得が起きていることがわかりました。
水と油と絵の具の比重の違いが生み出す自然の演出の中に自然の法則が見えるのですが、例によって、その意味がわかるようになるのは、もっと後でいいでしょう。今は、目の前で起きている現状の美しさに目を奪われて欲しいと思います。