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園長の日記

協力ゲームについて

2021/02/20

保育園が子どもにとっての生活の場所で、家庭も同じ子どもにとっての生活の場所であるとき、その両方の生活環境の同異に敏感なのは、自分の子どもを保育園に預けている保育士かもしれないと、気づきました。先日、その先生と保育園にある遊具を家庭にも紹介したいというテーマを語り合いました。19日の「わらすのブログ」をご覧ください。

◆園の遊具と家庭の遊具の違い

保育園にある遊具は、確かに家庭にはあまりないかもしれません。それはなぜかというと、家庭向けは一人遊びの玩具が主流なのに対して、園では複数で遊ぶことを想定したものが多いという傾向があるからかもしれません。

たとえば、東京おもちゃ美術館の館長の多田千尋さんとは知り合いなので、前の保育園に園内研修などで話をしてもらったりしたことがりますが、昔から彼とよく語り合ったことは「グッドトイ、つまり良いおもちゃというのは、一人の子どもにとって、という暗黙の前提があるよね」ということでした。彼の父親の信作さんは世界各地のおもちゃを収集して、世界中の良いおもちゃの種類と歴史にとても詳しい方ですが、彼はそこからおもちゃの美術館が生まれ、遊びとアートをを子どもから高齢者まで、また家庭から団体まで多方面に発展させる活動に邁進されています。日本で初めて「木育」ということを提案したのも彼です。

保育園の遊具は、一人遊びから集団遊びまで、赤ちゃんから就学前まで、遊具を含めた素材や物(廃材や水や土など)など幅広く関わる対象を捉えていることが「おもちゃ」とは大きく異なります。子どもが必要とする遊びにとっての「もの」は遊具だけとは限らないからです。

◆子どもの協同性を育てるボードゲーム

しかも当園のボードゲーム類は、協力ゲームと言って、何人かで遊ぶのは普通のゲームと同じなのですが、できるだけ「誰かが勝って終わり」に「ならない」ようなものを増やしています。何人かでうまく協力した方が勝ちとか、勝ち負けがなくて何かが出来上がって終わり、とか、協力し合う工夫の仕方が多様であるなど、複数の子どもたちが協同性を発揮するようなものを意識して導入しているのです。

そんな協力ゲームは、日本にはあまりなくて、国や文化が異なる子どもたちが一緒に生活していることが多いEU各国、特にドイツやフランスの遊具には、コーヒージョンと言って、人と人と結びつけるという機能を大切にした遊びが多く取り入れられています。意識して人と人をくっつけることを乳幼児の頃から保育実践として行っているのです。移民が多い国は、州政府がそういう政策に力を入れています。日本も単一民族ではないのに、そういう幻想が強いので、何もしなくても一致団結できると思い込んでいる節があるのですが、実は社会学の研究では、日本は他者を信頼する力が弱いと言われているのです。エコ贔屓はよくするのですが、外部とみなすと非常に冷たい国民性があります。

日本には絆という言葉や「結ぶ」という言葉がありますが、それが人間としての学びや経済活動の中で、他者との関係をしっかりと作り上げる人間力として、しっくりと使われる機会が減っているような気がしてなりません。放っておくと、色々な競争に追い立てられ個人や家族が分断されていることに気づかずに、孤立している人が増えているように思います。それはコロナ危機で露わになっていて、こんな時に苦しい立場になっているのは、日常的な協力や支え合いの生活から孤立されている方たちです。

子どもの頃から、そもそも人間が持って生まれてきた協力する力や環境を理解することは、脳に初期設定されているものです。それがデフォルトですから、他者のお手伝いを率先してやりたがるのは人類の特徴です。エプロンをつけたがり、お手伝い保育をやりたがり、ひな壇飾りを手伝いたがるのは、学習ではありません。ただし、ここが肝心なのですが、小さいうちからそれを「発現させる」ような環境、つまり人的環境がなければ、育たないということです。

異なる他者が集う場所に協力ゲームがあるといいのです。ミュンヘンには街中にボードゲームカフェがありました。神田でも似たような店を見かけましたが、コロナでその後どうなっているでしょうか。

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