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園長の日記

何を大切にするかを一緒に考えましょう

2021/08/25

保育のことを保護者の皆さんと語り合いたい。そういう思いに駆られています。そして、日本の保育界が今、大きな帰路に立たされていることを、皆さんにお伝えしたいと思います。昨日24日、開園前のことを区役所の担当者と話し合いました。そして思い出したのが、その方が開いていた勉強会のことです。

千代田せいが保育園が開園する前に、千代田区役所の小さなブースで平日の夜、月1回ほどの勉強会が開かれており、そこに毎月参加していました。参加者は多くて10人ほど。千代田区の公立や民間の先生も来て、ぞれぞれの園から話題提供して語り合うというものでした。その頃、私は「地域を園庭に」の構想を具体化するために、平日は八王子市の「南大沢駅」まで通勤していましたから、休日に千代田区を歩き回り、日々の散歩コースやバス遠足の候補地を探し回っていました。また千代田区には「園長会」がいまだにないので、少しでも知り合いを増やしておきたいという思いもあって、夜7時ごろから9時ごろまでの「勉強会」に毎回参加していたのです。千代田で働くことになる職員も誘い、情報収集に協力してもらいました。

私たちの仕事はパブリックワークです。公的な仕事です。日本の保育施設は、1990年台から顕著になったのですが公立から民間へ、いわゆる「民営化」がどんどん進んでしまいました。背景には新自由主義の「市場原理」を教育や福祉にも導入し、施設同士の競争によって質を向上させ、保育サービスの多様化を図ることが「政治決定」されたからです。待機児童解消というテーマが政治問題となり、ますます民営化へと拍車をかけました。

その導入は比較的簡単でした。「規制で守られているから創意工夫が足りないんだ、規制緩和しよう」というと、反対する人はあまりいません。反対は職域が減らされていく公立の保育園の先生たちぐらいでした。規制緩和というといいことのように聞こえますが、国が定めた最低基準(面積や保育士の数)を下回ってもいい、というわけですから、狭いところに詰め込まれるし、人はたりなくなるし、保育士の仕事は3Kになってしまいました。パートさんを増やすしか方法はありません。やめていく保育士を補充するために、派遣会社に頼るしかありません。市場原理を導入した経済学者は、人的流動性が高まったので「よし」と肯定します。

自治体の行政サイドも、公立保育園を増やすよりも、民間セクター(社会福祉法人、株式会社など)に任せてしまった方が、運営費が安く済みます。保育のコストは8割が人件費ですが、公務員が保育をするので、組合との力関係もあり民間に任せた方が遥かに安上がりなので、議会も民営化をどんどん進めてしまいました。この20年で子育てが豊かになったでしょうか。待機児童は減って働きやすくなったかもしれませんが、幸せになったでしょうか。子どもたちの虐待が減ったでしょうか。小中学生の学力や生きる力が「公教育」で向上したでしょうか。塾などの民間セクターの任せっぱなしのままで「公教育」はいいんでしょうか。

保育の質が公教育としての質ではなく、保育サービスの商品の質のようになってしまったことで、失われていくものに気づく必要があります。皆さんが保育園を選ぶという行為は、保育の質を選んでいるのですが、その背景には政治的な力学が働いていることになります。競争原理で質を高めるのではなく、子どもと子育て家庭のウェルビーング(幸福・健全性)の質を高めていきたい。ウェルビーングの子どもの姿は、園だより9月号の巻頭言で少し説明します。この質を高めていくために、皆さんと対話の場をぜひ作りたいと思います。9月からコロナ禍でもできる「コーヒータイム」「リモート懇談会」などをやりましょう。ぜひご参加ください。

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