今日は入園見学で3組の親子を2回に分けて案内しました。そのお母さんは1歳の自分の子どもが、初めて会った私に普通に抱っこされたり、園児に興味を持って自分から探検を始めたりする姿に驚いていました。こんなとき、私は「子どもは、子どものいる環境を求めている」ということを、実感するのですが、また同時にこうも思います。3歳まで親子で過ごすことの方がいいという常識は、人類の歴史から見ても、江戸時代までの子育てを見ても、まったくの誤りだと言うことです。このことは、多くの子育て家庭に早く気づいてもらいたいと、思い返すのです。
今月は樋口区長と意見交換をする機会があります。区長へはすでに3つのことを提案してあります。以下に、その内容を紹介します。
◆区長への提言◆
私は新聞記者だったのですが、今は保育園の園長をしています。平成20年告示の時の保育所保育指針は解説書を書きました。マスコミ時代と24年に及ぶ保育現場での保育の経験をもとに、就学前の非認知的スキルの育成、児童虐待の解決、学校のいじめ対策について、以下に3つの具体的な提案をします。
<提案3項目>
これらの課題を解決するためには、子ども同士のかかわりが豊かな保育園に対して、新たな時代にふさわしいアロペアレンティングな社会的役割を位置付け直す必要があると感じます。
(1)全ての千代田区民に対して、子どもが生まれたら、認可保育園に全入できるようにします。遅くとも6ヶ月から9ヶ月ごろまでに、育児休業を取得していても、赤ちゃんが集団生活の機会を得ることができるようにします。長時間保育は不要です。午前中だけ2時間ほど、子ども同士の関わり体験ができるようにします。いわば、これは3歳からの1号認定を、0歳にまで広げるという、新しい教育制度です。
(2)保育園をこれからの時代の社会的親として位置付け直します。人間は本来、核家族では育ちません。持って生まれた脳に相応しくない社会環境(人との関わり、身体的な感触遊びの減少、睡眠時間を含む生活リズムの乱れなど)が、親の子育てを苦しめ、虐待が増える子育て環境を助長しています。
(3)学年別の学習や生活が子どもの集団の権力関係を固定化し、いじめを発生させてしまう心理的なメカニズムを助長しています。異年齢の学びを入学前にも就学後にも大胆に取り入れて、個別最適な学びと協同的な学びを充実させるべきでしょう。
この制度改革によって、子どもの学力の基礎となる力の芽生え、特に創造性、コミュニケーション能力、協力する力、実行機能などの非認知的な力が育ちます。また減少する気配を見せない児童虐待の問題に対して、構造的な予防策に繋がります。さらに中教審答申後に動き始めている学校教育改革の中で、依然として未解決なままになっている「いじめ」の問題に、子どもの社会を育てることによる解決の道を見出すことができるはずです。
<背景>
ノーベル経済学賞を受賞したヘックマンの提言以降、教育・保育界は、VUCAの時代に向けて、自制心やレジリエンシーなどの非認知的能力を育てることが課題になっています。しかし具体的にどうしたら、それが育まれるのかについて教育・保育の現場にまだその具体的な方法論が浸透していないように思われます。一方OECD(経済協力開発機構)などの知見では脳の発達の敏感期は多くが1歳から3歳までにあり、その中に感情コントロールなど、脳の実行機能に大きな影響を与えるものが含まれていることがわかっています。