屋上で遊んできた子たちが玄関に戻ってきました。年長のTくんが私に鬼ごっこで遊んだことを説明してくれます。ん、すごい!面白い!と感じたのは(成長を感じたのは)、彼の話の中には「楽しかったこと」もありますが、集団として思い通りにいかないことへの不満が含まれていることです。自分のことだけではなく、年長組すいすいとして期待されていることがうまくいくことを望んでいることがわかります。子どもの成長は自分ができたことへの喜びだけではなく、自分も含めて、その集団が目指している目的が達成されることへの喜びへと発達してきていることがわかります。
このような個人の成長は、個人の「自立」であると同時に、仲間意識が色濃い集団の中でしか望めない「協同性」の育ちと言えます。自分が所属している小さな社会(ここでは、年長組)が、よりよくなることを望み、その一員としての自分と他者を振り返ることができるようになっているのです。この子は友達の行為について、目的を達成するための行いとして捉えています。このような主体性は、これからも時代に必要な力の中で、ますます重視されいくものになっていくでしょう。
こんなこともありました。3階の積み木ゾーンに、新しい遊具が導入されて、ビー玉がジグザグに転がってきて、ポトンと落ちる受け皿として、まだ箱に入って出されていないパーツを使いたい、というのです。ところが、私が出してあげようとすると「まだ◯◯先生がいいと言ってないから」と、合意を得るプロセスを優先させようとします。「小さな社会」の中で決まっているルールを変更するためには、ある種の手続きがあって、そのプロセスにこだわるあたりにも「協同性」を感じます。
ここで、あえて「これからの時代に必要な力」という言い方をしたのは、昨日までの話で出てきた外から中に注ぎ込まれる「コップの水」だということに、着目して欲しいからです。ここで紹介したよう子どもの主体性をエージェンシー(Agency)といいます。OECDの「エデュケーション2030」プロジェクトで、最重要なキーワードになっています。その定義は「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する力」のことで、行為主体、とか行為主体性、などと訳されているようです。
しかし、一方でこの水は、社会の中でこそ発揮される力でもあるのですが、ポイントはその社会がよりよくなるために、そのメンバーである個人が責任感を感じながら目標を達成させようとする自発性が育っているかどうかにあります。つまり「コップの中の水」が引き出される側面もあるのです。自発性が発揮される場面は、子ども同士という集団が生み出す活動(鬼ごっこ)や目的(より楽しい活動など)であるのでしょう。主体性という育ちは、外からとも、内からとも区切られない「水」だと言えます。社会性の育ちは個人と集団の両立の中に見られます。