近年「ビッグファイブ・パーソナリティ」という言葉をよく聞くようになりました。このミニ連載のために読んでいるOECDの本「社会情動的スキル」や、参照している図書「非認知能力」(小塩真司編者・北大路書房)にも、登場します。先に、この言葉の意味を押さえておきましょう。
解説は早稲田大学教授の小塩先生です。心理学では人格のことを人格特性と言います。英語ではパーソナリティ・トゥレイツ(パーソナリティ特性)です。比較的、長期にわたって変わらない安定した特徴を示す言葉です。
「自分の性格は明るくて楽観的で、頼まれたら断れないたちです、よく『お人好しなんだから』って友達にからかわれます」なんていう話のときの特性です。
能力とかスキルではなく、その人らしさ、性格や気質と思ってもらえばいいのでしょう。
5つというのは、外向性、情緒安定性(神経症傾向)、開放性、協調性、勤勉性(誠実性)です。人の人格を考えるとき、色々な要素が複雑に入り混じっていて、いろんな見方や整理がされてきましたが、最近の心理学では、この5つが人格特性の傾向を考えるときに、主要な分析の視点になっているというのです。
小塩先生によると、「外向性は、活発で刺激を求め、他の人と一緒にいることを心地よく感じる傾向、神経症傾向は抑うつや不安や怒りなど否定的な感情の抱きやすさ、開放性は伝統やしきたりにこだわらず、新しい考えを求める傾向、協調性は他の人を優先して円滑な人間関係を営む傾向、勤勉性(誠実性)は真面目で目標思考的で規律に従おうとする傾向」(『非認知能力』(小塩真司編者・北大路書房)5ページ)だそうです。
この5つを育てればいい、という話ではありません。この5つの側面はその人の個性を捉えるときの特徴ですから、いいとかわるいではなく、その人らしさ、というものです。ただ、その特徴が今テーマにしている非認知的なもの、社会情動的スキルを考えるときに参考になります、という話です。
ちなみに小塩先生によると「能力」という言葉は、「何かを成し遂げることができる力や、その背後にある可能性」という意味があります。
また「スキル」という言葉には、「訓練などによって身につけた力というニュアンスを含む言葉」です。
そして「特性」は、「パーソナリティ特性のように個人に備わった心理的な性質であり、何らかの機能を持ちながらも時間的に安定した特徴」(前同)だと説明されていて、なるほど、と思います。
スキルも能力も特性も、なんとなく使い分けてきましたが、このような意味の違いが、確かにあるな、と思います。この本には、この能力、スキル、特性という言葉が持っているニュアンスの違いを表にしてあるので、紹介しておきます。
心理学的な個人差特性 能力◯ スキル◯ 特性◯
将来よい結果につながる可能性 能力◯ スキル◯ 特性△
生まれながらの要因(遺伝など)能力◯ スキル△ 特性◯
教育による変化の可能性 能力△ スキル◯ 特性△
スキルや能力は教育によって身につけることができて、それによって、将来よいことに結びつくというニュアンスを感じます。なので、社会情動的特性ではなく、社会情動的能力とかスキル、という言葉になっていることがわかります。
また話は戻って、人格特性の方は、持って生まれたもの、生まれながらにして持っていて、教育や経験ではあまり変わらないものを色濃く持っています。なので「社会情動的」なものを考えるときも、特性の方ではなくて、教育の対象となる能力やスキルの側面を考えましょう、ということなのでしょう。
ただ、特性は全く変わらない、というものではもちろんありません。変わらないなら、人格の涵養や陶冶を教育ではできないことになってしまいます。教育基本法はその目標が「人格の完成」を目指していることを思い出しておきましょう。