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園長の日記

社会情動的スキル14  社会的知性

2022/05/07

今の人間の脳を大まかに分けると爬虫類と同じ部分、古い哺乳類と同じ部分、そしてホモ・サピエンスらしい脳の部分に分かれます。これは脳の三位一体モデルです。それぞれに「原始情動」「基本情動」「社会的感情・知性感情」が相当するという仮説があります。

脳神経科学によると、情動(感情)というものは、体の外や内部からのいろいろな刺激(信号)が、脳の中枢を通って運動系につながっていく過程で生まれるそうです。その脳内で生まれるいろんな感情の種類を、動物の進化の過程でどう変わってきたのかを見てみようというわけです。

私たちが持っている脳の中で、最も古い部分、原始爬虫類と同じ部分は、脳幹と視床下部が含まれます。この頃の動物は、最適な環境を求めての移動、食料を求めての移動が主です。それに関連した感覚情報から、必要と判断される運動を引き起こす際に生まれる感情で、それは主に快と不快です。お腹が減ったから不快、食欲が満たされて満足で快。食欲、睡眠欲、暑い寒い、運動、性欲、そのほか生理的欲求が満たされないと不快、満たされたら快、です。心地よさの大半は、このような生命維持装置である身体の反応からくる感情です。こんなに古くからある感情なんですね。

それが「古い哺乳類」になってくると、大脳辺縁系が加わります。人間に近い感情が出てきます。それは「基本感情」と呼ばれるもので、喜び、嫌悪、恐怖、愛情、怒りの5つです。どうして進化の過程でこの感情が生まれたのでしょう。その最大のきっかけになったのは、捕食者〜被捕食者の関係が生まれたからだというのです。動物がエネルギー源として肉食を選択した時から、自分も食べられるかも、襲われるかも、という警戒する運動機能が求められるようになり、その時に生まれる情緒が恐れ、恐怖感情です。ビクビクして臆病なものが、ちょっとした刺激に対して逃避行動を選択でき、弱肉強食の生存競争を勝ち抜いてきたのかもしれません。恐竜の影に隠れてひっそりと暮らしてきた哺乳類が選んだ行動が持っている感情なのでしょうか。一方で、相手を襲って食べるということも行うために、攻撃性も必要でした。そして常にお腹を減らして、空腹状態が常だった生き物にとって、食べ物にありつけるというのは、最も大きな喜びだったのでしょう。原始感情の快から喜びが生まれ、不快から嫌悪と恐れが生まれたという仮説です。

この説では、5つの基本感情のうち、3つの喜び、恐怖、嫌悪が自分の生存のために常に動いている情動だったと想像されています。単体の生物が、捕食―被捕の関係から発達していった感情です。全ての生物に共有する感情だと言われています。(本当かなあ? 金魚に餌をあげていると、その動きからは確かにそう見えますが、どの程度の感情なのか、金魚に聞いてみないとわからないですね)

ところが後の2つは、ちょっと種類が違うというのです。残りの愛情と怒りは、ペアでないと生存できないような生き方をする生物にしか生まれない感情です。相手がいるときに生じる感情で、社会性な感情に近づくのです。確かに子育てを協力して行う哺乳類は、子どもへの愛情を持っているように見えますね。ネズミも溺れている仲間を助けたりするそうです。保育園で犬や猫を飼ってみたいのは、この5大感情を感じるからです。ただ、アニメや漫画で恐竜が豊かな感情を持っているかのように描くのは、ちょっとミスリードかもしれないですね。

さて、いよいよ人間の感情です。5つの基本感情に加えて何が増えていったのでしょうか。その知見は、霊長類の行動研究からもたらされました。猿から進化したホモ・サピエンスが、高度な社会生活を営むに至るまでの段階で「社会的知性」という能力を身につけていったことが明らかになってきました。群れを作る集団生活は、複雑な問題を解決していくために、いろいろな人間関係のスキルが必要でした。それが社会的知性です。

感情心理学の研究者である福田正治さんによると、社会的知性には「欺き、裏切り、注意の操作、協同、同盟、連合、援助、支持、好ましさ、模倣、遊びにおけるふり、共感などが報告されている」と言います。「これらを実行するためには言葉はいりません。推論、予想、問題解決、関係性の認知、長期間の記憶保持、読心などの機能が脳の中にあればよい」のです。そして、このような集団生活の中で、愛情、嫉妬、罪、恥といった「社会的感情」が生まれていったと想像されています。集団や群れを維持するために、ボスを支持したり、仲間を共感したり、反目を宥めたり、共通の敵のために協力したり、分け前を配分したりする「社会的知性」が必要とされました。

どうでしょうか? このように感情の進化を辿ってくると、社会的な感情がいかに私たちの基本行動と分けられないかがわかります。さらに、私たちの感情は進化しています。神を想像し、歴史を綴り、文学とアートと科学技術をうみ、地球規模の連帯が必要な時代を迎えました。勇気、献身、思いやり、寛容、慎み、自己犠牲・・・どんな情動が必要なのでしょうか。

そこを考えて出されてきた提案の一つが、社会情動的スキル、IQ(知能指数)に代わる「心の知能指数」と日本語で訳されて広まったE Q(Emotional Intelligence Quotient)だったり、してきたのでした。何年も前から、藤森先生が取り上げてきたテーマになります。

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