今日14日(土)は明日15日まで開かれる第75回日本保育学会(聖徳大学)にリモートで参加しました。今年の大会テーマは「アーリー・スタート〜非認知能力研究の知見を保育に生かす〜」です。昨日までのミニ連載「社会情動的スキル」で見てきた非認知能力を、学会としても正面から取り上げています。
基調講演は、東大大学院教育学研究科の遠藤利彦教授で「アタッチメントが拓く子どもの未来:「非認知」なる心の発達と保育者の役割」でした。この基調講演で、とても参考になったのは、非認知的な能力やスキル、特性のまとめ方です。さまざまなものをどのように整理しておくとわかりやすいのか、苦労してきたのですが、遠藤先生は、連載19回目の「アタッチメント」で紹介したように、非認知の力をまず「自己」と「社会性」の二つの力に分けています。さらに三つ目に、この「自己」と「社会性」の両面に関わるものとして感情の統制を位置付けています。この整理の仕方は、確かにわかりやすいと感じます。
感情というのは、自分一人の中でも生じるのですが、特に他者との関係の中で感情をコントロールすることが多いからです。「自己」にも「社会性」にも関わる非認知なるもので、基調講演では、以下のように説明がなされました。
- 自己にかかわる心の性質
これは「長期的目標の達成」に関わるもので、「自分を大切にし、適切にコントロールし、もっと高めようとする力」です。その中に含まれるものは、「自尊心・自己肯定感」「自己理解」「意欲・内発的動機付け」「自己効力感」「自制心・グリッド」「自立心・自律性」などです。この長期的目標に関わることと考えれば、OECDのモデルと同じです。
- 社会性にかかわる心の性質
これは「他者との協働」に関わるもので、「集団の中に溶け込み、人との関係を維持していくための力」です。この中に含まれる非認知的なものは「心の理解能力」「コニュニケーション力」「共感性・思いやり」「協調性・協同性」「道徳性」「規範意識」などが含まれます。他者と協力することは、まさしく社会性に関わります。
- 両側面にかかわる感情の管理(制御・調節)
非認知なるものは、感情に関するものが多いわけで、保育における「教育のねらい」そのものが「心情・意欲・態度」という社会情動的な内容ですから、この制御や調整は、個人と社会の両方にそもそも含まれているわけです。(私はその結節点となる心情を「意欲」だと考えています。)
遠藤先生のまとめで興味深かったのは、この感情の管理の中に、「異時点間選択のジレンマ」と「自他間選択のジレンマ」があるという整理の仕方です。初めて聞いた言葉だったのですが、最初の異時点間選択のジレンマというのは、今を優先するか、それとも未来を優先するか、今の利益よりももう少し先の、もっと大きな利益のために、今を我慢するようなことです。「マシュマロ・テスト」を思い起こすといいのでしょう。このジレンマを解決するための感情の制御は自制心などと密接な関係がありそうです。つまり、自己に関わる心の中にこの感情の制御はあることになります。
もう一つの「自他間選択のジレンマ」は、自分の利益を優先するか、あるいは他者の利益を優先するか、人に迷惑をかけないことを優先するか、そうしたことの解決のために感情を制御することになります。ここには共感や思いやり、協調性などが働くことになります。
とてもわかりやすい整理だったので、ご紹介しておきます。