「あれ、固まった!」。
3階のパズルゾーンにある遊具を、じっと見つめている年長のTY君が、突然そういいました。遊具とは円柱状の透明な容器の中に、粘性の高いドロリとした液体が入っているもので、筒は3層からなり、穴を通って下へゆっくりと落ちてくる仕掛けになっています。例えると、砂時計の砂の代わりに、スライムのような硬めの液体が入っていると思っていただくといいでしょうか。筒をひっくり返すと、数分かかかって、下にゆっくりと流れ落ちてきます。
その動きが面白いので、子どもたちは集中してその動きを見つめています。私もそれが好きで、時々、頭の中を空っぽにしたくて、じっと眺めてリフレッシュツールとして使うことがあります。すると、いろいろなことに気づきます。中のドロリとした液体は、落ちてくる時に、最初は太い線になって穴から落ちてきます。その先端が底につくと、螺旋を描くように、細いロープ状になってクネクネと回りながら、ちょうどソフトクリームの輪ができるように、積み重なっていきます。
その回りかたは、やる度に右回りだったり左回りだったりします。そしてロープ状になった液体は、だんだん細くなります。なぜ細くなるのというと、下の部屋の空気が上の部屋へ押し出されるので、そのため液体が抜ける穴が小さくなるのです。その時、まるで細い液体が落ちるが止まったように見える瞬間があり、その時、子どもによっては「固まった!」「止まった!」ように見えるのです。
その気づきは、まだ不思議だな、という思いにはなっていなくて、「あ、止まった!」という事実としての気づきです。でも、どうして止まるんだろう?と思うのでしょう、見ていると、大抵の子どもは、瓶を手にして、斜めに揺らしたりするのです。すると落ちている細い液体は、向きを変えて落ちていることを教えてくれます。「あ、動いた」と言って、また元のように置いたり、ひっくり返してみたりしています。
実は、この呟きや操作をしている時、STEM体験が起きているのです。つまり、あれ!?という気づきがあって、なんでだろう?という興味から、対象をよく見ようとして持ってジッと見つてみたり、揺らしてみたりすることが、子どもがおこなっている、いわば「仮説検証実験」とでも言えることになっているのです。どうしてだろう? そう思って手にしてみる。あれ、なんだろうと思って近寄ってみる。これは、科学的思考の芽生えなのです。
「そんなことなら、子どもはしょっちゅうやっているよ」と思われるかもしれません。大人が持っている物に興味をもって「それなあに?」と、いろいろ手にして触ってみたり、真似していじってみたり、分解してみたり。時々、大人にとっては困ったことになることもあるでしょう。このような興味から引き起こされる行動に対して、昔から私たちは「こどもは小さな科学者である」という表現で、大切にしてきました。
中でも、「こうかな? ああかな?」と、ある現象に対して試してみたり、一歩進んで「どうして」そうなるのか仮説を立てて試してみたりするようになると、それはもう立派な科学的思考と言っていいものです。赤と青を混ぜたらこんな色になったから「じゃあ、これに緑を混ぜたらどうなるかな」と考えたりすること。ここに科学的な営みと同じ思考が動き出していると言えるでしょう。
この遊具が面白いのは、大人にとっても「あれ?」と思うような動きをすることです。液体が下に落ちてくると、その体積分の空気が、風船のような形をして1つ上の部屋に移動しようとするのですが、どうしてその大きさになるのかは、気圧と粘性度の関係で変わります。子どもたちはまだ、そこに不思議さを感じることができません。流体力学の知識が加わると、同じ現象を見ても、見えてくる物の奥深さが変わってくるのです。