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園長の日記

月食で見るものと見えない科学知識

2022/11/08

皆既月食をみながら子どもが「生活の知識」を積みなさねても「科学の知識」には辿り着けそうもないな、と直感的にわかます。毎日、お月様を見ていても、満ち欠けが起きる理由さえ、自分の生活経験から導き出すことなんて、できないでしょう。それは教えてもらったから、あるいは自分で学んだから、知っている知識です。毎日の生活の経験から、太陽と地球と月の位置関係を、太陽の公転面を上から(下からでもよいが)眺める視点を持ち得て初めて、満ち欠けが発生する理由や意味を納得できるからです。日常の生活から公転面を外から眺めるようは視点を自分で見つけることなんて、できそうもありません。

皆既に限らず月食は、地球のかげが月に映っているのですが、欠け始めはその部分が影らしく暗いのに、欠ける部分が増えるほど、全体がぼんやりと明るく見えるのはどうしてでしょう。光の性質は不思議で、直進している光はものに当たると散乱し、光がそこにあるとわかるようになります。光自身は光っていないのです。映画館やプロジェクターから出ている光は、空気が透明で漂っているゴミや粒子がなければ、そこに光線があることは見えません。したがって太陽からの光線はものに当たって初めて見えてくるものなのです。

光はともかく、そもそも、太陽や地球や月や天王星が引力で引き合っているなんて、よく発見したものです。物体と物体の間には引力が引き合っていて、だから私たちも地球に引き寄せらているから立つことができています。空気も引き付けられているから気圧ができ、私たちの表面は1気圧で押されているから、内側からの圧とバランスを保っています。無重力、つまり空気も発散してしまっている真空に放り出されたら、私たちの肉体も内臓も血液も一瞬で蒸発してしまうのです。

何より、宇宙空間で物質は丸くまとまってしまうのも、引力のせいが大きくて、だから太陽も地球も月も丸いわけです。でも、その引力が発生する仕組みは今でも解明されていません。面白いことに、その引力には伝わるのに時間がかかります。時間がかからずに、パッと向こうまで伝わるのではありません。太陽と地球の距離があれば約8分もかかるらしい。つまり思考実験で、太陽を消し去ったとしても、地球は8分間は回り続けます。その後は紐が切れたけん玉のように、太陽の周りを回らずに真っ直ぐ離れて飛んでいってしまいます。

もっと不思議なことに、その重力の伝わるスピードと光の速さは、なぜか同じです。だから、地球から見えている太陽は、8分も昔の姿なのです。夕日の赤い太陽が、「あ、いま日没した」と思っても、実は8分前にすでに日没している(方向に太陽が去っている)。日の出も南中時刻も、そう。これが太陽なら8分前の姿だが、30億キロも離れている天王星ともなると、2時間40分もかかります。つまり今回の皆既月食と同時に起きた天王星食は、8時ごろに起きたが、実際には数時間前の姿なのです。

このように自然科学の知識というものは、自分で見て触って確かめることができないようなものが多い。「そう言われている」、「そう計算されている」、という形での知識です。科学の知識は正確で合理的に判断できるようなものであり、再現性があり、予想できて確かめることができる知識だと言っていいでしょう。では子どもにとって、どんな体験をしておくといいのでしょうか。

私はこれまでの経験から、生活の中に、その子なりに何かを「感じ、気づき、面白いと感じ、自分なりの理屈ができること」まででいいと思います。だから、科学的に正解と言われていることを「知っている」ことを優先するよりも、そこにたどり着けるための考える力、思考力、やりぬく力を育むものを大事にしたい。それは何かというと、感受する感性、着眼点として機能する見方や考え方、その心の動きを別の角度から見れば躍動する好奇心や探究心、ふしぎがる感覚、センス・オブ・ワンダーのようなことが、そもそもの源のようなものがあるのかもしれません。

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