働き方改革やDXの影響から、園の書類のデジタル化がずいぶん進んできました。まだまだ、変化の只中なのですが、当園の場合もデジタル化は「保育の可視化」の方法にも影響を与えてきました。園内に掲示しているものと、ホームページに写真や文章で解説しているものとバランスというか、その比重も変わってきました。掲示スペースが少ないということもあり、量的にはデジタル化されたものが多くなりました。個人情報を守るという観点も大事にされるようになってきて、園内での写真掲示を控えることも増えてきた要素です。
また毎日のように保護者の皆さんとやりとりしている内容と、保育実践との関係も、コミュニケーションのツールの変化にともなって影響を受けています。
この15年ぐらいの変化を振り返ってみると、職員が作っていた装飾から子どもの作品や、活動の一環の何かを園内に掲示することへ変わっていったと思います。その後、それを子どもが見たり活用したり、またその作成過程の前後の子どもの心の動きを書き添えるということが増えていきました。
さらに環境の再構成の結果だけではなく、先生同士の話し合いや計画の変更過程そのものも、大事な子ども主体の軌跡として示してくいく要素も加わっていきました。そのうちに保護者からの「お便り帳」などでいただく意向や感想、アイデアなどコミュニケーションの一部も、やりとりそのものを大事にする形へと変化しながら、保育を作り出すパートナー、その考えを共有するものとして、意識して可視化されるようになっていきました。
このようなことを考えるとき、保育士養成課程の「保育原理」の中にもある「保育所の社会的責任」との関係を踏まえないわけにはいきません。それは保育所保育指針の総則で示している「基本原則」の5つ目と重なります。その内容項目としては3つにまとめてあります。参考までに書き記すとこうです。
ア 保育所は、子どもの人権に十分配慮するとともに、子ども一人一 人の人格を尊重して保育を行わなければならない。
イ 保育所は、地域社会との交流や連携を図り、保護者や地域社会に、 当該保育所が行う保育の内容を適切に説明するよう努めなければな らない。
ウ 保育所は、入所する子ども等の個人情報を適切に取り扱うとともに、保護者の苦情などに対し、その解決を図るよう努めなければな らない。
そもそも「ア」の展開としての実践の深化としてドキュメンテーションはあると思っています。これは子どもにとってのものであり、職員の対話と、保育のデザインがセットのものです。入園の案内の時に、皆さんに私が「この保育園のベースは一人ひとりを大切にすることです」という話をしてきたと思いますが、それはこの子どもの人権のことからきています。それを可視化したものは、まずは本人のリソースになる必要があります。ただ「イ」のところの説明責任からの可視化が、保育界全体を後押ししてきたとも言えます。
また「ウの個人情報保護」との兼ね合いから、園内の掲示のあり方も影響を受けているのも確かですね。昔の掲示をご存知の方からは、寂しくなりますね、という感想も受けますが、そこは時代の変化でもあります。ただ、子どもにとって必要な可視化は豊かにしていきたいと思っています。それは両立が可能だと思っています。