やっぱり、いいこというなあ。
「前よりも強くなったのはどんなところか?」
そんな記者の質問に、サモア戦から一夜明けた今日6日夕方の記者会見でスクラムハーフの田中史朗がこう答えました。
「相手の状況とか癖ととかを見て、どうしたらいいか、自分たちで判断できるようになったこと」
と言った趣旨のことを話していました。
状況判断力。
これは保育でも、必要な専門性です。
一般的に社会で「スキルが必要」という言い方をします。
どんな職場でも、どんな仕事でも「スキル」を持っていないと通用しないものです。このスキルというのは、なんでしょうか。
私は東京都福祉サービス第三者評価委員ですが、一般にスキルというと「知識と技術」のことを意味します。ある分野で必要なスキルは、その分野の知識と技術のことです。
平成20年告示の保育所保育指針で、厚生労働省が発行する「解説書」を私は書きましたが、その中で、初めて保育士の専門性が定義されました。
その時、それまでの「知識と技術」に加えて「判断」という言葉も追加されました。保育士には、生活や遊びを見ながらの状況判断が、とても大切だからです。
こういうことをしているのなら、こんな環境を加えたらもっと経験が深まるだろう。そこでそんな遊びをしていたら、こんなけがをするかもしれないな。この子どもたちなら、こんな動きをするに違いない。こうした「判断」を繰り返しながら、保育は進んでいきます。
ラグビーを見ていて、ゲームメーカーがいることがわかります。ラックやモール状態からボールが出た時、サイドを突いて突進させるか、広がるウイングへボールを回すか、キックしてフォワードを走らせるか、あるいはモールのままタッチラインへ持ち込むか。そのボールのコントロールの要が、サモア戦では後半から出場した田中史朗でした。
彼は常にラックやスクラムやモールの後ろにいて、ゲーム全体を見渡し、その都度の司令塔をやっています。記者会見での彼の落ち着いた言葉には、なるほどと感心します。
さて、保育がラグビーだったら?トライは何に相当するのでしょう?W杯優勝に相当する目標はなんでしょう? それは「子ども一人ひとりの発達をきちんと保障すること」です。では、チーム千代田のメンバーは? それは職員だけではなく、保護者の皆さんを含めて、子どもに関わる方すべてです。フィールドは、家庭も地域も含まれます。
千代田せいが保育園が、それぞれのご家庭の延長線上にあるホームですから。保育園から出かける公園や地域も、家庭から広がるホームです。
ではスクラムハーフのように「判断」が問われるのは誰でしょう?それは子どもの傍にいるすべての大人ではないでしょうか。
ただし集団があるのは、園のような生活の場に限られてしまう時代、社会になってしまいました。ですから、私たち保育者は、集団の中での「判断」を問われています。
さあ、ラグビーボールがラックから出てこようとしています。
スクラムハーフはどうしますか?また明日から、家庭と保育園とスクラムを組みましょう。