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園長の日記

社会情動的スキル⑦ 情緒の安定性・開放性

2022/04/30

社会情動的スキルについてのミニ連載は、今日「昭和の日」の430日で、ちょうど1週間になります。いろんな言葉が出てきて、中には似たような意味のものもあって、ちゃんと考えようとすると、「どんな子どもの体験が、それを習得する体験になっていくんだろう?」とか「どんなことを大切にしていったらいいんだろう?」などと、この日記を読まれている方は、そんな感想をお持ちかもしれません。ちょうど1週間なので、この4月に報告されているブログの内容を使って、GW期間に、そこを説明したいと思います。社会情動的スキルから見た「4月の振り返り」です。

ちっち組

「抱っこやひざの上が好きなRちゃんは、仰向けで寝転ぶといつも泣いて怒っていたけれど、機嫌の良いときにちょっとずつ、寝転びながら大人が顔をのぞいて一緒に遊んだり、玩具に興味を向けてみたり・・・を繰り返すうち、ひとりでゴロンとして遊べることも増えてきました。」(4月24日)

さて、ここにどんな「社会情動的」側面があるか見てみましょう。

社会情動的というのは、「社会的」で、かつ「情動的」ということですから「人と人の間」「人間関係」が前提としてあります。その人的環境の中にあって、移ろいゆく、いろいろな「心の動き」「心もよう」のうち、情緒、感情、意欲、意志などがそれにあたります。これらを情意面ということもあります。

ちなみに「考える」という「思考」の方は知識とか判断とかの側面ですが、認知面というとわかりやすいでしょうか。どちらも一緒に心の中で動いていて、切り離すことはできません。一緒に働くものだからです。それでも、あえて焦点を当てたいのは前者の方です。

この文章の中には「好き」「泣いて怒って」「機嫌」「顔をのぞいて」「興味を向けて」といった言葉が出てきます。これらは全部、社会情動的な側面といえます。好悪の感情、気分の浮き沈み、興味や好奇心、そうした情動的な心の動きは、子どもに限らず大人の誰もが感じたり、表していたりするものに思えます。赤ちゃんが、ご機嫌にノリノリノの時や、ご機嫌がナナメなときがあるのは、人間なので当たり前です。

この感情の起伏の中で、好きな人ができて、その人に安心感を求めて心の拠り所を形成していくことになります。その人にくっついていたいという愛着欲求が満たされながら、そこを心の基地にして周りの世界への探索が広がり、行きつ戻りつしながら情緒が安定していきます。私たちはこれを「愛着関係の成立」と呼んでいます。これが人間的ふれあい、ヒューマン・コンタクトでした。このように、人と気持ちを通わせながら、不安な気持ちや、それを衝動的に補おうとする心の動きが、あるスキルや能力、特性を育んでいきます。

Rちゃんの場合、ここで注目したいのは「情緒の安定性」と「開放性」です。一般に情緒が安定するのは、子どものさまざまな欲求を適切に満たしていくことで達成されていくのですが、これはケア=養護の原理になっています。ここで描かれているRちゃんの場合、抱っこされていた状態から一人での遊び方を獲得していく過程が描かれています。

 

ここでいう「情緒の安定性」とは、人格特性の「ビッグファイブ」の一つをさしています。それは「否定的な感情体験やストレス要因に対処する能力であり、感情をコントロールする上で重要なもの」になります。赤ちゃんが求める生(なま)の欲求をただ満たすだけではなく、それを満たしながらも、周囲の目新しいものや面白そうなものへの好奇心や探索欲求に働きかけるような環境を用意しておくのです。

するとRちゃんは、「泣いて怒っていたけれど、機嫌の良いときにちょっとずつ、寝転びながら大人が顔をのぞいて一緒に遊んだり、玩具に興味を向けてみたり」という感情コントロールの体験になっていることがわかります。その時に大切なものが、これもビックファイブなのですが「開放性」です。「開放性」とは「新しい経験に好奇心を向けていく傾向のことで、美しいものへの感性や多様性への受容などとも関係する特性」です。

このように、ちょっとした、一見なんでもないように見える赤ちゃんの姿ですが、そこには人格の骨格となると言われている「5つの特性」を育む体験になっていることが見えてくるのです。このような体験を、毎日、刻々と積み重ねながら、小さいうちから大事な社会情動的スキルを身につけていっていることがわかります。

社会情動的スキル⑥ デイリープログラム

2022/04/29

この図は、OECDが作ったものを私が表にまとめ直したものです。「認知的スキル」と「社会情動的スキル」が、それぞれどんな要素で成り立っているのか、3つずつの要素をさらに3つでまとめてあります。この左側の方が「社会情動的スキル」です。

これを見ると、社会情動的スキルは、「目標の達成」「他者との協働」「感情のコンロトール」からなり、その構成要素の中には、忍耐力とか思いやりとか自制心などが入っています。当園の保育目標「自分らしく 意欲的で 思いやりのある子ども」の内容を、この社会情動的なスキルの育成と関連づけながら、保育の計画を立てることが大切になります。

このスキルにはどんな特徴があるのか、OECDの調査結果から学びましょう。

ます「スキル」と言うからには、学習によって身につけることができます。保育園なので学習というのは「遊び」の中で、と思ってください。遊んでいる時、生活している時に身につけることができるものです。能力とか特性となると、子どもによって身につける程度が変わってくる割合が増えるのですが、スキルは学べば習得できるというものです。

次のこのスキルは、認知的スキルとバランスよく身につけることが大切なものです。上の表は右と左に別々の分けてありますが、二つはお互いに重なり合っている、つながって影響しあっていると考えてください。二つの枠の間に⇄の矢印があると思ってください。

そしてこのスキルは雪だるま式に「スキルがスキルを生む」と言われています。乳幼児期から身につけることができ、最初に取得した社会情動的スキルは、認知的スキルの習得に好影響を与えながら、さらなる社会情動的スキルを高めていくことに役立ちます。「認知的スキル」と「社会情動的スキル」のどちらが影響するかというと、社会情動的スキルの方が影響する効果が大きいことがわかっています。

さらにこのスキルには習得に臨界期があり、それぞれの要素に身につけやすい時期というものがあることもわかっています。したがって、親も先生もそのことをよく理解して家庭や保育園、学校でどう対応したらいいのかを学ぶことがとても大事だと言われています。

最後にこのスキルを身につける方法は、今行なっている方法を大幅に取り替えるようなことが必要なのではなく、少しの工夫によって達成できるような方法だということです。そして、身についているかどうかの評価も可能であり、その方法も決して難しくありません。OECDの研究では、通常私たち保育者がとっている記録で評価ができるようなものです。

 

社会情動的スキル⑤ 朝のゾーン決め

2022/04/28

園だより5月号「巻頭言」より

年長のKHさんが朝のゾーン決めの司会をしています。「どのゾーンがいいですか?」 すると「はい!」「はい!」と手があがります。手が真上にピーンと伸びています。その手は「ねえ、ボクをあてて!」と主張しています。かわいいですね。

司会「〇〇ちゃん」

子ども「運動ゾーン」

司会「なんのゾーンがいいですか?」

子ども「パズルゾーン」・・・

こんな集団の中で会話を繰り返して、朝8時30分からの3階の生活が始まります・・

 

こんなやりとりを毎日、いろんな場面で繰り広げているわけですが、ここには「目標の達成」「他者との協働」「感情のコントロール」と言う、社会情動的スキルを育てるという大切な保育テーマが盛り込まれています。どこで遊びたいか、それぞれの目標を達成するために「他者との対話」を通じて、全体を通じて「協力すること」が求められます。その中で「最初にやるより2番目にやろう」とか、「先にこっちで遊んで、それまで待とう」とか、「今度はこっちにしよう」という「実行機能」が使われていることがわかります。

また、一方で今週から、すいすいを主に相手にした「園長タイム」が、朝の運動や午後の絵本の読み聞かせなどで、割り込ませてもらっています。30分から1時間ほどの関わりですが、その間に、子どもの特性を理解したり、興味や関心を把握したりしています。そこから見えてくるものは、これからの生活の道標になっていくのですが、短い時間ながら面白い発見がいっぱいです。

絵本を読んであげていると、単語の理解度や集中できる時間の長さ、面白いと思うポイントの違い、その子独自の反応の違いなどがあって、頭の中で何を想像しているのかが感じ取られて楽しいのです。今週は「エルマーの冒険」を読み始めましたが、やっとみかん島のクランベリ港に無事に到着しました。枝つきとうもろこしの袋と勘違いされて見つからずに済んだ件(くだり)は、その面白さがわかったかどうか、微妙な理解度だったあたりも、「どうかなあ、通じるかなあ」と思いながら読んでいます。ああ、そう言うことか、と後で微笑んでいる子もいて、いい時間だなあと感じるのです。

社会情動的スキル④ お手伝い保育

2022/04/27

園だより5月号「巻頭言」より

(お手伝い保育がはじまった25日(火)。「よろしくお願いします」とすいすいさん。にこにこ組へ)

年長さんになると「お手伝い」と言う活動が始まります。「ねえ、園長先生、お手伝い保育はいつからやるの?」と、何度か聞かれました。それくらい、新しい年長さんたちは、この活動を楽しみにしています。らんらんの時に、そばで年長さんたちがやっていたことを見てきているので、自分達も「やってみたい!」と言う意欲に溢れているようです。これも社会助動的スキルを育てることになっています。OECDのまとめによると、「社会情動的スキルは非認知的スキル、ソフトスキル、性格スキルなどとしても知られ、目標の達成、他者との協働、感情のコンロトールなどに関するスキルである」(「社会情動的スキル」52ページ)とされています。小さい頃から、生活と遊びの中で「見通しをもつ」ことは、これらの力を引き出す場面になります。そこで現行の指針や要領は「見通しをもつ」と言う文言が入りました。お手伝い保育は、この3つの体験が色濃く詰まったものにデザインされています。

3月は年度の始まりに向けて「わくわくした気持ち」を大切にして過ごしました。そして4月は新しい出会いの中で、期待と不安が入り混じった高揚した気持ちが、徐々に落ち着くべきところへ落ち着いていく過程の時期、アウェイがホームに変わっていく時期に当たります。心の揺れ動きが大きくて、楽しい!と寂しい!のアップダウンが激しかったり、泣いていたかと思うと、キャッキャと大はしゃぎの笑顔が溢れていたり、朝、すんなり登園できたりパパママとの朝の別れが辛かったりと、日によって見せてくれる姿が違っていたりしますね。私たちはロボットと違って、感情の生き物ですから、しょうがない。その時々の情緒の波があるのは当たり前でしょう。

4月末から5月初めはゴールデンウィークがあります。子どもたちと話すと、おじいちゃんやおばあちゃんと会ったり、いつもとは違う生活を楽しみにしているようです。どこどこへいくんだよ!ってワクワクしていますね。自然あふれる場所へ出かけたり、来年のランドセルを買うんだと待ち遠しそうに話してくれる子もいます。

G Wはちょっとまた長い家庭での生活になります。ちょっとお節介気味な話になりますが、4月は今述べたようなコンディションづくりの1ヶ月だったので、このリズムをできれば崩さないようにしたいものです。やっと毎日の生活リズムが出来つつあるので、早寝早起き朝ごはんの習慣はGW中も変えないでいけたらいいですね。私たちからすると、「根っこ」の部分がしっかり固まってきた鉢植えの土に蒔いた種が、これから芽を出そうという時に、鉢植えの土をひっくり返してしまうくらいのことだからです。

今度は、明日は、来週は、来月は・・・こうしたいね、と言う見通しを持って、生活を創り出していきましょう。

社会情動的スキル③ 「心の根っこ」を育てる

2022/04/26

子どもたちの発達を確かなものにするためには「根っこ」を太くすることがともて大事なのですが、抽象的に「根っこ」と唱えても、それが具体的には何をどうしたらいいことなのかがわかりません。

(マスクの使い方のマナーを学ぶ子どもたち)

 

そこで私たちは乳幼児期からの発達課題を押さえることを勉強します。一人ひとりの、そうあってほしい「子どもの姿」を思い描きながら、そうなっていくために必要な体験を計画していくのです。でも一般的な発達課題が、どの子どもにもそのまま当てはまることはなく、個人差である個性を捉える必要があります。今日は、そこに焦点を当てた話し合いをしました。先生たちから子どもがどのように見えているか、その子どもの特徴は何か、そこから見えてくる配慮や保育のポイントは何か、という話し合いです。

その時に大事にしている視点は、心理学で言うとパーソナリティ、日本語では人格特性というものですが、そこには誰でも凸凹があって、その「デコとボコ」のボコの由来を捉えるようにします。一般に私たちの人格特性は、持って生まれてきた生得的な部分と、生まれた後で経験することから育つ部分との合作です。二つの要素が相互作用して、影響しあって形作られています。その二つをきれいに分離することはできなくて、それは四角形の底辺と高さみたいなものなので、その面積のうちどこまでが生得的なもので、どこまでが経験的なものかはわかりません。それでも教育によって面積は大きくできるのです。

しかも「根っこ」はその図形が台形だとしたら、底辺をしっかり大きくして安定した形にしてあげる必要があると言うことになります。底辺をしっかり広くすると、その上にたくさんのものを載せることができます。底辺が短いと、その上に多くのものは乗らず、いつかバランスを崩して倒れてしまいます。そんなイメージです。

発達課題としての根っこは基本的信頼感、自己への自信、揺るぎない情緒の安定感などが挙げられます。大好きな人(親や先生など)から認めてもらえているという安心感、そうしたものに包まれながら、不安感のない屈託のない笑顔が湧き出てきて、わがままぐらいな自己主張ができ、「今日はこんなことしたんだよ」と毎日を楽しそうに振り返り、「明日はこうしたいんだ」と言う期待や希望をもち、安心と満足の中で夜眠りにつき、朝元気に目が覚める。赤ちゃんなら自分の手や足を自分で触ってたしかめて伸び伸びと遊び(ちっちのブログ)、五感を使って感触を楽しみ、相手と気持ちを通わせることを好むような3つの関わり(身体・精神・社会)を体験していきます。

幼児になっても、赤ちゃんの頃に親しんだ世界との関わり方は、何度も繰り返し必要となります。大人に心の余裕があるときは、ちょっとそうした温もりのある心で子どもの心を包み込んであげましょう。それが根っこを太くしていくことになるでしょう。

社会情動的スキル② 交通安全指導

2022/04/25

今日25日(月)は、万世橋警察署の方に来ていただいて「交通安全指導」教室を開いていただきました。にこにこ組は2階でスクリーンに投影した動画で、わいらんすい組は3階で、模型の信号を使って横断歩道の渡り方を学びました。「右見て、左見て・・」を知っている子どもたちでしたが、大半の子どもが実際にやっていることは、ただ右や左に顔を振っているだけで、車や自転車が走ってくるかもしれない、と「見よう」としていません。

中には首振り人形のように、左右に ブルブルと動かす首振り人形になっている子もいて、わいわい(3歳児)くらいだと、振り向くことと見ることがつながっていない子がほとんどと言っていいでしょう。「右見て、左見て」のポイントは、どこを見るんだっけ?どうして見るんだっけ?を意識できるようになることでしょう。そっちを振り向いても「自分で」「よく見えてない」と気づいて、自分で「まだ歩き出さない」、「確かに今なら大丈夫」という判断力や自制心、行動コントロールへの意欲を育てることが、交通安全指導における社会情動的スキルの育て方になります。

このことを「3つの資質・能力」の育ちから考えるとどうなるでしょうか。安全に道路を渡るという、リスク回避力を身につけるシンプルな行動目標を達成するため、3つの側面が関係しあっていることがわかります。

信号の意味の理解(知識)、右や左を見る行動スキル(技能)、その知識や技能を使って「今なら安全だな、よし渡ろう」という思考力と判断力が働くこと、そのためにエンジンとなるのが「よし、やってみよう」という前向きな意欲、「できたあ!」という達成感から作られる満足感や自己肯定感、そして何度もやって褒められながら(支えられながら)できた体験から静かに育っていく「情緒の落ち着き」や「明日への期待」、そして自分への信頼感など、「心の根っこ」の部分が耕されていくのです。

道路の信号を守って渡ることは「大事なことだ」という認知的スキルと併せて、今述べたようは非認知的スキルがバランスよく育つこと。これが交通安全指導でも、将来の健康で安全な生活(質の高い幸福な生活)を作り出すために必要なことだということがわかりますね。

社会情動的スキル① 学びに向かう力について

2022/04/24

私の手元に一冊の本があります。その本のタイトルは「社会情動的スキル」(明石書店)というもので、経済協力開発機構(OECD)が、社会情動的スキルの重要性と育成のあり方についての3年間の研究をまとめ、2015年に刊行されました。日本語に訳されたのは2018年です。ベネッセが企画・制作し、翻訳は無藤隆さんと秋田喜代美さんです。そしてのその本のサブタイトルが「学びに向かう力」となっています。日本で社会情動的スキルの重要性が認識され始め、新しい学習指導要領に反映させることになります。そして無藤隆さんが座長だった審議会の中で3つの資質・能力の一つが「社会情動的スキル」なのですが、そのことを「学びに向かう力」と名づけることになりました。

そうすると、私たちが「学びに向かう力」の育成を保育で実践するためには、何が学びに向かう力なのか、中身を理解し、どうやったらそれが育つのかを知る必要があります。この本が提言している内容は、まさにそれに答えようとして、調査した結果です。まだ概念的な内容に留まっていますが、それでも世界が進もうとしている方向性はわかります。またどんな要素が将来に影響するのかという縦断調査も、海外の豊富な調査結果が報告されていて、参考になります。

その中で紹介されている有用な「社会情動的スキル」のかたまりの代表格は、目標達成、他者との協議、感情のコントロールの分野です。それはそうだろうな、と直感的に思います。皆さんもそうだろうと思うでしょう。ここでは「社会的な成功」というものが何か、という価値観も影響することがわかるのですが、目標に向かって力を合わせて協力するためには、自制心などの自分の気持ちや考えや行動を制御できる力が必要だろうということは想像できるからです。ただ、注意したいと思うのは、そこには価値観がある、思想があるということです。それが前面には出てこないけれども、その背景には、民主的社会の優位性が脈打っていることを感じます。

私はこのような書物や研究成果を参考にする際、自分の直感的な判断と異なることがあると、勉強になります。そうか、そういう見方・考え方はしてこなかったなあ、という気づきがあると面白いからです。そういう意味で、自分が納得できる言葉に置き換わるまでこの手の知見は理解する必要があると思っていて、そのような学び方の方が、毎日の普段の保育場面に生かすことができると考えています。

自分で何をするか決めて選択すること、お友達の気持ちや考えもよく聞く場を作ること、選択することから生まれる責任感を大切にしていくこと、そうした意欲や態度を見かけたら、それを「いいね」と強化してあげること(個人差があるので強調の差、手加減を敏感に変えること)、悪いことや誤った行為に対する反応(あえて反応しない、いいところは着目してあげるなど・・)を子どもによって変えること、そうした毎日の保育のポイントがそのままでいいのか、さらにブラッシュアップできる点はないか、そんな振り返りにこのような知見は役立つのです。

自主研修会で非認知的能力について学び直す

2022/04/22

<・・・他方、様々な研究成果の蓄積によって、乳幼児期における自尊心や自己制御、忍耐力といった社会情動的側面における育ちが、大人になってからの生活に影響を及びすことが明らかとなってきた。これらの知見に基づき、保育所において保育士等や子どもたちと関わる経験やその在り方は、乳幼児期以降も長期にわたって、様々な面で個人ひいては社会全体に大きな影響を与えるものとして、我が国はもとより国際的にもその重要性に対する認識が高まっている。・・・>

この文章は、平成30年3月に出された現行の「保育所保育指針」の「序章」に書かれている文章です。指針や要領は約10年ごとに改定されているのですが、改定する理由は時代が変わって新しい制度ができたり、子育てをめぐる課題が変化したり、それらの「大きな社会問題」に対応するためです。また、ここに紹介した文章のように、保育の質をめぐる学術的な新しい知見が登場し、保育のねらいや方法をよりよく改善していくことが求められるからです。

その一つが、「社会情動的な側面」をどのように育てるか、というテーマになります。この社会情動的能力とは、何かができたり分かったりする認知的な能力ではありません。認知的な学力は、これまでも学校教育が力を入れている教科学習の側面ですが、そうではなく自尊心とか自己制御とか忍耐力といった、非認知的な能力になります。私たち保育者が「生活と遊び」の中で、その教育のねらいとしてきた「心情・意欲・態度」がそれにあたります。このことを、今は「学びに向かう力、人間性等」と呼ぶことになっています。

こんな指針の理解について、何が改定の特徴だったのか、何が求められるようになってきたのかなどを、今日は「自主研究会」という形で改めて学び直しました。使った事例は最近の子どもたちの姿です。こんな「勉強会」を開く目的は、子どもたちが何がどのように成長したのか、何を身につけたのか、それを私たちが読み取る視点の中に、ここで取り上げた「非認知的スキル」の観点もしっかり位置付けたいというわけです。

また、社会情動的な能力や非認知的なスキルの他にも、感じたり、気付いたり、分かったり、できたりする「知識や技能」、それから、それらを使って考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする「思考力、判断力、表現力」などもあります。これら3つを合わせて「資質・能力」という言葉で、乳幼児期から高校まで、一貫して捉えることになっています。

この保育園を卒園したら、小学校での学びと生活が始まるわけですが、そこでもずっと、この「3つの資質・能力」の育成が継続されていくのです。この3つの観点で評価されたことが「通信簿」に反映されます。では、小学校以降の学びの中で、生きて働くように、保育園時代にやっておかなければならないことはなんでしょうか。そう考えた時にはっきりするのが、「生きる力」の源になってくる、いわばエンジンのような非認知的スキル、社会情動的スキルの習得ということになってきます。

先日16日(土)の藤森先生の講演では、これからの時代に必要な力は「会話する力」「協力する力」「実行機能」の3つである、という話もあったわけですが、これも大事な非認知的能力に他なりません。そしてこれらの力は、相手や仲間や集団の中で育つものばかりです。家庭では育てたくても、なかなかそういう体験が起きるような人的環境がありません。人間の「人間らしさ」の基礎的な力は、人類が集団の中で獲得してきたものが多いからです。自主研修会では、動画を見ながら話し合ったのですが、私たちが園生活の中で当たり前と思っている人的環境は、今の時代の発達課題を考えると、とても貴重な場になっていることが見えてくるのです。

自尊心、自己制御、忍耐力という言葉で代表される非認知的な力は、現在の研究では11項目に整理されています。これらの力がどんな場面で子どもにとって学ぶ機会になっているのか、それを一つずつご紹介していきたいと思います。そして、この「学びに向かう力」をしっかりと身につけることで、小学校以降の人生が豊かになるように、幸せになるように、していきたいと思います。

千代田区就学前プログラムの検討会

2022/04/21

今日は午後から千代田区の「就学前プログラム策定委員会」がありました。昨年度から始まった検討会ですが今日で5回目です。昨年度までの議事内容を踏まえて、今回は千代田区が育成を目指す子どもの姿について話し合いました。子ども部長も子ども支援課長も変わり、新しい事務局態勢のもとでの再スタートとなりました。

私たちが今世紀までに到達している教育学の中で、ずっと変わらない考え方の一つが目的論的教育学です。教育である限り、目指す目的を定めてその手段を考えるという、目標準拠型のアプローチは変わることがないようです。私は公的な教育機関が、全ての子どもに対して同じ教育目標のもとに教育していいという合意を、どうやって取っているのか大いに疑問なのですが、なぜかというと、そこに少なくとも市民(区民)が参加すべきだと考えるからです。

さらにいうと、子ども本人の意思というものをどのように反映させることができるのか(できないだろうことはわかっていても、理念形としてはそうあるべきだということなのですが)、それも大切な視点だと思います。子どもの主体性を尊重する保育を考えるとき、子どもの参画が欠かせません。それは先日の藤森平司理事長の講演会でも触れられたものです。

策定委員会では、私は目指す子ども像を考えるときの観点を述べました。一つは現行の指針や要領が大切だとしていることを踏まえたものにすることと、これからの時代の変化を見据えたものにすること、その2点を強調しました。中でも、最初のことの中には、自尊感情、自己制御(実行機能)、忍耐力などの非認知的スキルが含まれまれます。しかも、それらは人間関係の中で培われることが多いことや、好奇心や探究心が引き出される環境、教材の質が問われることを述べました。

 

ことばから行動へ 行動からことばへ

2022/04/20

ぐんぐん組のブログを読んでいると、言葉の獲得が子ども同士の世界を広げていく様子がよくわかります。よく物の取り合いなどの場面で、手を出したりする前に「ことばで言おうね、かして、って」などと促すことがよくあるわけですが、大人のそうした働きかけは、何をしているのかというと「行動の世界」を「ことばの世界」に置き換えていくことを促していることになります。これが、この時期の子どもたちの成長課題になっています。気に入ったものを自分もやりたい! だから自分もやるから取る、ということは「行動の世界」から見れば、それとして成長してきた証になるわけですが、それを「しつけ」つまり社会的なルールの獲得という、文化継承の面から見れば、相手の思いを尊重しながら承諾を得るというステップがどうしても必要なことを学んでもらう必要があるわけです。

そこで、例えばジェスチャーで、”それを僕もやりたい!”と、身振り手振りで表現してみてもいいわけですが、そこで人間の場合は、その表象の役割を言葉が担うようになっていくから、とても不思議で、面白いのです。ちょうど満1歳ごろから言葉を話し始め(初語)、人との関わる体験を積み重ねることで相手の意思や意図を理解しながら、自分の行動をコントロールしていくことができるようになってきます。その関係性の発達に合わせるように、「行動の世界」に「言葉の世界」が浸透していきます。ことばによる気持ちの通じ合いが体験されていくのです。その様子が子どもたちの遊びの姿からはっきりと読み取れる時期に、今ぐんぐんさん(1歳児クラス)はいます。

ことばが行動になり、行動がことばになって、その行き来が行われる中で、言葉の獲得が進んでいくのですが、見方を変えると実践しながら言葉の意味と使い方を身につけていくようにも見えます。この言葉の誕生期は、人間らしさの誕生と言ってもよく、もう一つの生きていく世界を自分のものにしています。子ども同士の関係の中で培われているものの豊かさを感じますね。

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